「不祥事」池井戸潤

 今年、Jノベルコレクションとして新調刊行されましたが、元は2004年の小説です。
 半沢直樹シリーズより前(直前)に書かれていますから、池井戸潤の初期作品と云ってもいいかも。
 銀行の支店を指導する臨店チームの2人(相馬健、花咲舞)を中心に展開される連作金融ミステリー集。
 二段組30ページ強のお手頃で読みやすいボリュームの作品が8篇。
 専門的な銀行の業界用語の他は、別にややこしいところもないので、すぐ読めます。
 それぞれの話も、思わずのめり込んでしまうのもあれば、退屈なのもあり。池井戸潤のレベルから云えば中の下かな。
 ただ、それぞれの話しのつながり具合がとてもいい感じなので、ラストでは、ああそうなったかと、連作ではありますがひとつの長編を読み終えたようなすっきり感がありました。
 気になるのは、本作の舞台が東京第一銀行という都市銀行であること。
 半沢直樹シリーズの東京中央銀行は、東京第一銀行と産業中央銀行が合併して出来たメガバンクです。
 半沢や頭取の中野渡は産業中央銀行出身で、不良債権も多く香川照之扮した悪徳役員もいたのが東京第一銀行。シリーズ通して旧S(産業中央派閥)と旧T(東京第一派閥)の派閥争いが根底にあるのは周知の通りですね。
 ですから、半沢シリーズに繋がるものはないかと、けっこう気にしながら読みましたが、登場人物等リンクしているものはないようです。東京第一銀行がかなりブラックだというのは、同じ認識でしたが・・・花咲舞とか出したら面白かったと思うんですがねえ。いや、そうしたら半沢直樹の倍返しもかすんでしまいますか。花咲のほうが強いでしょうね。

 では、簡単にあらすじ。
 この小説によくでてくるテラーという言葉は、銀行の窓口係のことです。カウンタースタッフですね。
 相馬健は、2ヶ月前に転勤してきた本店事務部調査役。かつては大店の融資部で名を馳せたバンカーでしたが、出世競争から落ちこぼれ、5年越しで念願叶って本部調査役の椅子を手に入れました。少しぼんやり型。
 花咲舞は、臨店チームのためにセレクションされた凄腕の花型テラー。跳ねっ返りでズケズケと物を言いますが、正義感が強く、相馬から「狂咲」と呼ばれるほど怒り狂う一幕もある、美貌の中堅女子行員。
 このふたりが、事務部臨店チームとして、営業課の事務処理に問題を抱える支店を個別に指導していきます。
 営業課の事務処理とは、窓口業務のことです。融資部に対する臨店チームとはまったく性格が違います。
 行く先々で色々な問題、罠、ミステリーが待ち受けているのですが、東京第一銀行内部で強行的な改革路線を推進する最年少の執行役員、真籐毅企画部長の派閥を仮想敵として物語は展開しています。
 
「激戦区」
 各銀行がしのぎを削る激戦区でライバル行に惨敗している、自由が丘支店の営業課は惨憺たる内容だった。口座相違2件、現金紛失1件、裁判沙汰になった誤払い1件・・・etc。しかし、12人いる営業課スタッフの能力は予想したより低くない。相馬と花咲は、最近相次いでいるベテランテラーの退職が事務過誤が多発している原因と推測する。そして、その裏には、支店幹部による“コストカット”のための、ベテランいじめがあった。
「三番窓口」
 将来の頭取候補と目される真籐企画部長の派閥だった自由が丘支店の矢島支店長が、臨店チームに成敗された。
 同じ真籐派閥で矢島の同期だった神戸支店副支店長の紀本は、仇を取るべく燃える。関西指折りの大店・神戸支店は半年で重要過誤が2件。そのミスは三番窓口を担当する1年目の行員、田端恭子が原因だった。自由が丘の仇を神戸で・・・相馬と花咲を迎えた、口座相違の罠!
「腐魚」
 老舗百貨店ワンマンオーナーの伊丹清吾は、真籐が自ら応対するVIPである。伊丹百貨店は、融資額1千億円の優良取引先であり、首都開発の一大プロジェクトも計画されていた。そんな中、相馬と花咲の臨店先は、新宿支店。事務量がハンパではない繁忙店だ。そして、ここには伊丹清吾の御曹司が勤めていた。さあ、大事件の予感・・・
「主任検査官」
 行員数25名、中規模店舗である武蔵小杉支店に、金融庁の検査が入った。相馬と花咲が臨店する直前のことである。主任検査官は、青田という札付きのノンキャリアで、銀行業界からは恨まれていた。そして検査で重大なトラブルが発生。なんと銀行側が隠蔽した資料が立ちどころに発見されたのだ。資料を隠した南田博は、相馬と花咲の代々木支店時代の同僚だった。どうやら、支店内に密告者がいるらしいのだが・・・
「荒磯の子」
 伊丹百貨店の御曹司の一件で、立腹している真籐。蒲田支店の須賀支店長が、臨店チームを嵌めてやるという。相馬と花咲は、臨店ではなく応援として蒲田支店に入った。蒲田は不況の京浜工業地帯の管轄で、客層は複雑なうえ多忙、地獄の一丁目と呼ばれる難しい店である。さっそく、姑息な手段で潰されようとする臨店チームだったが、売られた喧嘩は買うが花咲の真骨頂。支店員全員に大事にされている会社社長の裏の顔を暴く。
「過払い」
 臨店先は、新宿支店。閉店後の照合で、百万円が合わない。どうやら、今年入行10年目になるベテランの中島聡子が過払いのミスをしでかしたらしい。彼女は仕事ぶりに定評もあり、営業課の行員からは一目置かれていた存在だったが、魔が差したのか? 百万円の過払いは支店にとって大事件である。さっそく過払いの相手先と思われるIT関係の会社社長に問い合わせると、余分な百万円は受け取っていないという。さあ、どうなる!?
「彼岸花」
 突然、真籐の元に届けられた彼岸花。真籐はそれを捨てろと言うが、彼の部下で若手最有力の児玉直樹は、その態度に不自然なものを感じる。送り主の名は、川野直秀。人事部に問い合わせると、彼は元企画部の行員で、早期退職制度によって退行していた。さらに調査を続けた児玉は、なんと川野が自殺していることを知って愕然とする。ならば、彼岸花を送ってきたのは誰だ・・・最年少執行役員である真籐の輝かしい経歴の裏に秘められた罪深き過去。
「不祥事」
 伊丹百貨店の全従業員9千人分の給与データが紛失した!
 これは東京第一銀行の信頼を根底から揺るがす、前代未聞の不祥事といってよかった。
 データが入ったMOディスクを伊丹側から持ち帰り、来客の合間に紛失したのは、本店第二営業部の坂田調査役。将来が嘱望されている30代前半のエリート行員である。魔が差したとしか言い様がない。
 一方、伊丹側は収まらない。東京第一銀行側の事務能力不足を指摘し、計画が進む巨大開発プロジェクトのパートナーに、ここにきて東京第一銀行のライバルである白水銀行が浮上する。
 銀行では急きょ、真籐企画部長を委員長に、各部署から選抜された調査委員会が組織され、紛失事件の真相を追う。
 ちなみに、委員会には、事務部から相馬と花咲が入っていた。嵐の予感・・・と驚愕のラスト!


 
 
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この記事へのコメント

テレビドラマでは、題名を変えていました。
「花咲舞が黙っていない」 みたいになっていたと記憶しています。
やっぱり、池井戸潤は題名がイマイチですね。

Re - 焼酎太郎 - 2014年10月25日 11:33:00

テレビドラマになっていたことをまったく知りませんでした。
しかも、今年じゃないですか。
花咲舞役が杏ですか・・・
私の中では、ショムニの宝生舞みたいなのがピッタリなんですけどねえ。

コメントありがとうございました☆

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