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その6:不祥事発覚時における広報対応
(1)事件発覚、迫真の記者会見はこうして成功した!

2015年10月22日

■ うちもそうだった!どうしたらいいでしょうか?

2013年10月下旬のある日、「山見さん、今日午後何時でも来て欲しいのですが......」と電話があった。電話の主は、某大スーパーの広報部長。
拙著『企業不祥事・危機対応広報完全マニュアル』(自由国民社刊)を読んだという。

「どうしたんですか?」とすぐ問う。
「数日前大手スーパーの"異物混入事件"が大きく報道された後、他のスーパーでも発覚、当社はメディアからの問い合わせには当初全面否定していましたが、とんでもない異物混入が発覚したので、この対応法を指導願いたい」と切羽詰まった口調であった。
「何とか窮地を救わねば!」と先約を延期、同日15時から説明を受けた。その結果、異物混入は事実だが、意図的ではなく、チェックできない仕組みが原因と現状判断した。

そこで、第一に直ちに危機対策チームを結成しきちんと準備を整え、第二に消費者庁への報告、第三に記者会見実施をアドバイスした。

主要ポイントは次の通りである。

 1.「発表の遅れ」に対する合理的説明は?
 2.「再発しない」とする合理的説明は?
 3.「組織ぐるみではない」とする合理的説明は?
 4.「トップの関与はない」とする合理的説明は?
 5.トップの責任とその処分は? 甘いと見なされない程度は?
 6.「プレスリリース」と「Q&A」をいつ完成出来るか?
 7.消費者庁への報告と記者発表は最短でいつ出来るか?
 8.「発表者」を誰にするか?

気が付くと夜8時を超えていた。


■ 正確に現状把握、万全資料作り、好転の手を打て!

関係部課長から成る対策チームが急遽集合した。
週末通して全ての事実をリストアップし現状を詳細に把握、「情報マスター」を作る。それを原資データとして整理分析し、時系列的に並べ直し、確認情報と未確認情報に分け、未確認情報は再確認し、さらに抜けがあれば情報を補充しつつ「ポジションペーパー」作りに精を出す。

そのプロセスを経て、公式見解(プレスリリース)+Q&Aの原案を作成、トップ(社長)の承認を得なければならない。そうすれば発表者が自信と確信を持って会見に臨めるのである。

私からの注意点は:

 1)プレスリリースには、不動の事実+間違ってはならない数字や表現+報道してほしい・伝えてほしい数字や表現は網羅する
 2)当面の対策、経営幹部の責任、顧客への補償等を明確にする
 3)Qの想定を万全にし、絶対に隠しているという印象を持たれない


月曜9時半より、社長を筆頭に緊急危機対策会議を開き、チーム作成のプレスリリース+Q&A原案を一つひとつ読み合わせし追加・修正。目途がついた午後一番で、消費者庁に電話し率直に事情説明した結果、翌日10時に報告、11時に消費者庁記者クラブで記者会見を行うことになった。

そこで、同日夕方より再度、社長から担当まで一堂に会して、最終資料(プレスリリース+Q&A)完成に向け、特に語尾の表現に留意し一字一句吟味し、文言を選び修正、社長の最終承認を得た。

発表者を誰にするかで企業の姿勢が問われるので、できるだけ上位者を推奨した結果、社長自身と常務に決定。広報部長が司会することになった。

私のアドバイスに従い「今回の異物混入は、単発的な問題であり、意図性はなく組織ぐるみではないことを明確に表現し、直ちに実行可能な当面の対策を2、3明示、責任者の処分については絶対に甘いと言われないように厳正にする」等、開示できる項目は全て記載することを徹底した。

記者がすぐ原稿作成に取り掛かれるに必要な情報を盛り込むと、質問も減り、記者の手間も省け、間違いも少なく意図する内容での記事となる可能性が高くなるからだ。


■ 試合前練習が鍵!

発表は試合。重要発表は「全国大会」と見なそう。イチローでも試合前には万全の準備=練習する。

夜11時頃より2時間くらい、完成したプレスリリースとQ&Aに基づき、私が記者役になって発表リハーサルを行った

まず、姿勢が大事とまっすぐな立ち方・歩き方・座り方から入室の態度、正しいお辞儀の仕方や話し方、檀上での振る舞い方まで一つひとつ実技指導。特に、最敬礼はテレビ映りを想定して腰が90度まで折れるよう、何度も繰り返した。
数時間の睡眠後、翌日8時半より再度主要部分のリハーサル。声の大きさ、トーン、特にお辞儀の形を徹底再チェック!


■ 消費者庁報告良し、記者会見で質問が出ない!

火曜10時 消費者庁訪問、プレスリリースを基にありのまま報告すると、その誠実な態度が好意的に受け止められたのか30分程度で終了。すぐ会見室に入ると、既にテレビカメラ6台以上最後列にセットされ、100人以上の報道陣が陣取り、会見開始を待ち構えているではないか! 
そこで、私は、広報部長に、定刻前だがプレスリリース配布をアドバイス!

するとどうだろう、記者達は、一斉にパソコンに向かい原稿を書き始めたではないか! 狙い通りだ。

11時きっかり、発表者2人が入室し広報部長の司会で開始。社長が直立のまま詫びを述べた後、揃って"最敬礼 90度!"。ビデオが回りフラッシュが相次いだ。背筋が伸びたお辞儀姿は美的にさえ見えた。

発表後、質問を催促するも手が挙がらない! 漸く出た質問も数字の確認が主体で、社長の進退等微妙な質問は出ず! それは必要項目が網羅されたプレスリリースを見て原稿を書き終え、デスクに送ったからに違いない。結局、1時間の予定が30分位で終了した。

発表はメディアを通じてステークホルダーや社会に伝えるためであるが、本来は一人ひとりに伝えるべきだ。そこで、公式見解を社内主要部署に徹底し、同じ内容を、営業から主な顧客へ、購買から主な取引先へ連絡するなどそれぞれの部署から必要なアクションを取るようにアドバイス。同時に自社ホームページにも即時アップして動揺のないように配慮した。

■ むしろ好転した!

さあ、次の関心は.メディア露出状況と顧客や社会の反応だ。

まず、テレビの昼のニュース! NHKはじめ全局が取り上げたが、特筆すべきはお辞儀のすばらしさ! 背筋が伸び90度曲折の姿はお詫びの気持ち溢れるようすで好印象! 内容も淡々と事実のみ。しかも新聞夕刊4紙でも悪い印象の表現はなかったのだ。

翌日朝刊は、通常は朝刊の方がより大きな記事になるのに、夕刊のない産経だけと、最小限の露出に留まり、社長初め経営陣もほっと胸をなで下ろしたのであった。

今回の一連の成功要因としては次の通りであろう:

 1.トップによる徹底調査指示を担当まで理解し実行した
 2.トップの決意と再生への並々ならぬ情熱と意欲が全社に伝わった
 3.トップと危機対策チーム一丸となった動きが相乗効果となった
 4.広報部が一貫して情報開示姿勢を保ち問い合わせにも適切に対応した


最も大きな成果は、1)経営幹部が日頃の危機対応の重要性を肌で認識し、2)社内全体が常に危機意識を持つ様に研修やメディアトレーニングを定例的に行うことになったこと。
つまり、社員一人一人が広報の本質と危機意識向上、全社的危機への対応の仕組みを理解する啓発活動を実施し始めたのである。
こうして"事態を好転"させたことが最良のご褒美であろう。


上記は理想的なプロセスを想定したケーススタディである。

「我が為をなすは我が身の為ならず 人の為こそ我が為となれ」(新渡戸稲造『一日一言』)

山見 博康