弁護士に「引退」を迫る弁護士会に未来はあるか?

 最近,記事の内容がマンネリ化しているような気がするのでしばらく別の話題にしようかと思っていたのですが,この点だけは黒猫も何か書かずにはいられない,という話が出てきましたので,取り上げることにします。
 既に,別の弁護士さんなども取り上げている話ですが,政府御用達の極右マスコミで知られる産経新聞が,こんな記事を出しています。
<参 照>
「交通事故減少」「若者貧乏化」が弁護士を干上がらせる? 弁護士懲戒「過去最悪」の背景
http://www.sankei.com/affairs/news/150319/afr1503190001-n1.html

 まあ,記事にもあるとおり,弁護士の仕事がどんどん減っているのは事実です。伝統的に,普通の弁護士が手掛ける仕事のうち多くを占めていたのは交通事故,離婚事件,借金整理といったところですが,交通事故は若者の車離れが進み事件自体が減少,離婚事件は分与する財産もない低所得者層の増加等により弁護士に依頼する案件は減少,破産事件も貸金業法改正等により件数が激減,といった具合ですね。
 ただ,問題は日弁連・高中副会長のこのセリフです。

その上で高中副会長は不祥事根絶対策として「仕事が来なくなったら競争社会に負けたということ。その場合は潔く事務所を閉めて引退するなど、エリート意識を捨てることが必要だ。ハッピーリタイアできるよう、若いうちから老後資金をためておくよう意識改革を促すこともひいては不祥事対策につながるだろう」との考えを示した。

 世の中に同業者団体は数あれど,仮にも会費を納入させている会員に対し,「食べていけないくせに会員の地位にとどまっているのは驕りだ。プライドを捨てて引退することが必要だ」などとお説教する団体は,おそらく日弁連くらいでしょうね。
 要は,食べていけない弁護士がいつまでも弁護士の資格にしがみついているから不正を働くんだ,食べていけない弁護士を引退させれば弁護士の不祥事は減るという発想のようですが,既に大半の弁護士は,弁護士を廃業して他の仕事を探そうとしても,まともな就職先はほとんど期待できない状態にあります。
 それに,例えば黒猫自身,言われなくても数年のうちに弁護士を廃業する可能性が高いですが,仮に弁護士を廃業してどこかの企業に就職し,頑張って運よく管理職レベルのポストに就けたとしましょう。そういう立場になった黒猫が仕事で弁護士を使うときは,たぶんこんな使い方になりますよ。

「何だこの文章は,いまどき小学生でもこれよりはまともな文章書けるぞ。お前本当に司法試験受かってるのか?」
「もうお前じゃ話にならん,ボスを出せ!」
「いいですか先生,こっちは自分じゃ訴訟が出来ないから先生に依頼してるんじゃないですよ。私も旧司法試験合格して弁護士もやったことあるから,訴訟なんて自分でやろうと思えば十分できるんですよ。先生に依頼しているのは,単に自分たちでやるより外注した方が安上がりってだけですからね。あんたらはプロじゃなくて単なる底辺の小間使いだってこと自覚してくださいよ」
「先生は期日に裁判所に行って頂くだけで結構です。印紙とか予納郵券とかはこちらで直接裁判所に出しますし,和解交渉とかもこっちでやりますから,勝手に相手と交渉したりしないでくださいね。弁護士先生にお金なんか危なくて預けられないですし,弁護士先生に交渉なんてやらせたら,わざと話をこじらせて弁護士費用ふっかけようとするのは分かり切っていますから」

 まあ,弁護士の中でも外国法に詳しいとか特殊な専門性を持っている人であればここまではやりませんけど,その場合でもたぶんこうなりますね。
「先生はお一人で来てくださいね。ロー卒の若造に適当な肩書くっつけて連れてこられても,そんな人の料金はお支払できませんからね。うちはロー生の研修所じゃないんですよ」
「先生,あんな使えないロー卒にうちの仕事割り振るなんて,うちを馬鹿にしてるんですか。今後こんなことがあったら,さすがに先生と言えど仕事切りますよ」

 当たり前ですけど,弁護士を廃業して他の仕事に移る人の大半は,「自分は弁護士としての能力がなかったわけではなく,際限のないダンピング競争に嫌気がさしただけだ」と主張するでしょうから,そんな人がなお弁護士業界にとどまり続けている人に対し,敬意など払ってくれることはまず期待できません。
 また,そういう人はどうしても弁護士登録が必要な訴訟事件等を除き,法的な案件はまず自分で処理しようとするでしょうから,その分弁護士として残っている人の職域は減少します。
 そして,弁護士を廃業して何とか他の職業に移れる人は,弁護士の中でも比較的目端が利く有能な人が多いでしょうから,弁護士という仕事にとどまり続ける人は,今更他の仕事に移ることも出来ない「ロクでなし」ばかりになる可能性が高いです。

 もともと,弁護士という仕事はその発足当初から社会的ステータスが高かったわけではありません。
 戦前の弁護士業界は,大して高学歴でもない人たちが威張っているような世界で,特に1930年代以降は無理のある増員で経済的に困窮する弁護士が増え,警官から「弁護士なんかやるよりもっとまともな仕事に就いたらどうだ」と言われてしまう,まさに社会の底辺に属する業界だったようですが,それが戦後の制度改革と,何とか弁護士の社会的ステータスを上げようという関係者の長年にわたる努力により,一時は弁護士が医者と並ぶ社会のエリート層と認識されるまでに上り詰めたわけです。
 いわば,今の弁護士業界は関係者の長年にわたる努力を自ら台無しにして,弁護士の社会的ステータスをどんどん下げようとしているわけですが,高中副会長が「食えない弁護士は潔く廃業しろ」などと訴えてみたところで,むしろ食っていける可能性のある人材が逃げていき,弁護士業界から逃げる力もない底辺層が残るだけで,おそらく弁護士の社会的ステータスは現在よりさらに下がります。
 例えば,今の介護業界や警備業界は極度の人手不足で,仕事の社会的重要性に関係なく社会の底辺層が集まる業界になってしまっているわけですが,それでも需要があるだけまだましな方で,仕事自体が減っている弁護士が,今後介護ヘルパーや警備員をも下回る「社会の底辺」になってしまう可能性はかなり高いですよ。そうなったら,横領などの不祥事はむしろ増え,依頼者が「弁護士にはお金を預けない」など自衛策を採らざるを得ない状況になるでしょうね。
 今年法科大学院に入学する人が何人いるかは現時点では分かりませんが,入学した人は高中副会長の言われるようにすべてのプライドを捨て,「自分たちはこれから社会の底辺に落ちぶれていく業界に入ってしまった」ことをよく自覚してください。公務員になるなり企業に就職するなり,早期にこの業界から足を洗う用意が出来ている人はまだいいですが,弁護士になるつもりなら,それこそ雑用でも何でもこなすつもりでないと生きていけないですよ。


 あと,日弁連についても「会員の支持が得られなくなったら競争社会に負けたということ。その場合は潔く弁護士会館を閉めて解散するなど,エリート意識を捨てることが必要だ」と思いますが。