経営コラム

コラム「研究員のココロ」

不祥事にどう対応するか
~ブランド構築における企業理念の重要性~

2008年03月03日 宮地恵美子


なぜ起こる?企業の不祥事

 昨今、様々な業界で偽装問題の発覚、あるいは不具合・不祥事により、ブランドが大きく傷ついた事例が頻繁に報道されています。不祥事も、予め知っていながら対外的に公表しなかったことも問題になるわけですので、偽装問題ということも出来るかもしれません。
 内部統制への対応強化が進められているにもかかわらず、偽装や不祥事の発覚が増えているように思えるのはなぜなのでしょうか。日々報道される事件の多さに、日本人の倫理観は変わってしまったのか、とも思えてしまいます。しかし、例えば再生紙偽装の発覚のきっかけは社員の内部告発にあったように、これら偽装や不祥事の発覚は関係者の告発によるものが多く、以前はもみ消された、あるいは取り上げられなかった声が取り上げられるようになった、と見ることも出来るかもしれません。
 これら不祥事や偽装問題は、目先の利益を追ったために起きている場合がほとんどです。問題を公表した場合、短期的には当然業績に影響はしますが、長期間それを公表せず放置しておけば置くほど、ブランド力は低下し業績は悪化、と悪影響は大きくなります。そのことを当然わかってはいるけれど、その渦中にいると、発覚する可能性を否定してしまうのかもしれません。

不祥事や偽装問題がブランドに与える影響

 不祥事が長期的な損害を企業に与えることは、ブランド力の回復に長期的な時間が必要になることと不祥事との関係から理解することが出来ます。
 昨年日本総合研究所が独自に実施した調査で、「値段が高くても買いたいブランド」と「最も価値が高いと思うブランド」について尋ねた結果があります(注1)。「値段が高くても買いたいブランド」を評価する理由として最も多かったのは「品質や性能などが高いから」でした。また、「最も価値が高いと思うブランド」として評価する理由は「高級感があるから」という結果になりました。
 つまりこの調査結果からは、「品質や性能が高いこと」が「値段が高くても買いたい」ことに最もつながりやすいということになります。逆に言うと、「高級感」があっても「品質や性能が低い」場合は、値段が高くても買いたくはない、ことになります。
 この他、「デザイン性が高い」「信頼感がある」ということが「高くても買いたいブランド」として評価される割合が高い一方、「知名度が高い」「業界標準となっている」などが「価値が高いブランド」と評価した理由の上位になりました。
この結果を元にすると、「品質や性能が高い」「信頼感がある」という、偽装や不祥事と対極にある要素の評価が高いことが「買いたいブランド」となるために必要だということができます。
 一方、一度ブランドに関連して不祥事や偽装などが発生すると、たとえ知名度があったり独自性があっても、「買いたいブランド」という地位を失うことになります。信頼感は短期的に回復するのは困難な要素ですので、結果として収益力の回復に長期間要することになります。

ブランド力は復活できるのか?

 では、不祥事等で一度失墜したブランドは復活させることは出来るのでしょうか?
 有名な例として、タイレノールの例が挙げられます。これは、1982年アメリカで起こった、医薬品メーカーであるジョンソン・アンド・ジョンソン社の主力商品の一つである鎮痛剤タイレノールに毒物が混入し、死亡者が出たものの、会社側の迅速かつ徹底的な対応により、ブランド力を回復した、という事件です。この事件は、毒物は外部から混入されたということで不祥事とはいえないのですが、そのことが判明していない段階で、全ての商品を市場から回収し、徹底した原因追及と情報公開などを行ったことが、その後の評価回復につながったと言われています。
 アメリカでは鎮痛剤といえばタイレノール、といっても過言ではないビッグブランドです。そのような商品を全て市場から回収する、という意思決定を経営トップとしてどのような判断により行ったのでしょうか?
 実は非常にシンプルな判断がされています。当時のCEOは、ジョンソン・アンド・ジョンソン社の企業理念・倫理規定である「我が信条(Our Credo)」を意思決定のより所としたそうです。
 この信条は大きく果たすべき4つの責任からまとめられています。全ての顧客に対しての責任、全社員に対しての責任、地域社会に対しての責任、そして株主に対しての責任です。こう書くと普通の企業理念になってしまいますが、理念の多くは単に「します」という表現ではなく、「しなければならない」という表現が中心となっているところに特徴があります。つまり、単なる宣言ではなく、全役職員にとって必須である、ということが謳われているのです。
 そして、この信条を実践していくことがすなわち経営トップとしてすべき意思決定である、という判断に基づいて行動した結果、タイレノールブランドは引き続き市場のリーダーとなることができたわけです。

企業理念の実践がブランド力を高める

 このような大きな問題に対峙するための拠り所が企業理念とは、意外な感じがするかもしれません。実際、企業理念はあってもあまり知らない、あるいは唱和させられるけれど内容を意識したことは無い、いわば大義名分、というケースも多いのではないでしょうか。
 しかし、実質的な創業である1983年からの短期間の間に高級ホテルとしての地位を確立したザ・リッツ・カールトンも、働き方や理念をまとめた「クレド」を徹底的に浸透させたことが成長の鍵の一つであることは有名です。
また最近では、検索サイトのグーグルが企業理念を実践している例として挙げられます。グーグルの企業理念には大義名分的な表現は全くありませんが、理念の一つにトップページという最も効果の高いであろうページに広告を載せないことを掲げています。
 グーグルの収益源は広告ですが、最もアクセス数の多いトップページ自体は、ユーザーにとって広告がある必要が無い、という考え方が企業理念としてあるからです。トップページへ掲載を希望する企業は非常に多いと思われますので、このページだけで相当の利益を得ることが出来るはずですが、あくまでも理念に則って運営するという企業姿勢がグーグルの成長を支えていると言えると思います。
 このように、大義名分では無い本当の意味での企業理念の存在とその実践が、強いブランドを作り、またブランド失墜の危機からも救う要因となります。企業理念が浸透することにより偽装や不祥事発生を防ぎ、また仮に不祥事等が発生した場合も、経営トップがこの理念に基づいて判断・行動することで、ブランド力の早期回復をもたらす可能性が高くなると考えられます。
 イメージで捉えられ、評価される「ブランド」ではありますが、その構築にはしっかりとした理念の構築と社内への浸透策の構築が重要なのです。