秋田球児の今後 横たわる課題 関係者座談会(完)

2006年07月15日

▽甲子園初戦敗退の原因は 「硬式」指導体制に遅れ

 ――夏の甲子園、秋田県勢は8年連続初戦敗退しています。どういうことが原因と考えられるでしょう。

 伊藤護朗氏 スポーツで成功するには、環境、指導者の力量、選手の能力の三つが必要と言われる。今年春の選抜大会でベスト8に進んだ秋田商の戦いを見ても、全国に引けを取らない。秋田県では、指導者も選手の能力もそのレベルには達していると思う。そうすると環境はどうか。

 全国の強豪は、県外への遠征などを頻繁にやっているが、そうすると経済力も必要だ。私学はある程度特色のあることに取り組めるが、公立は限度がある。環境面では、全国優勝まではまだちょっと遅れている。公立が大半を占める秋田では、監督、選手はかなり健闘している。経済的な面も含め、周囲の支援がないとなかなか難しい。

 戸部良一氏 全国レベルから、だんだん置いて行かれているような感じがする。一番の違いは、秋田県はリトルリーグがほとんどないため、硬式野球に慣れていないこと。ではどうするか。少しでも早く硬式に慣れさせるため、中学校の軟式の大会が終わってから高校に入るまでの期間、硬式野球に慣れさせてはどうだろうか。

 もちろん進学のための勉強も重要だ。しかし地区で週1回でも2回でも希望者を集めて指導する体制をつくる。いきなり高校入って慣れさせるより、半年以上も前からやることで、高校に入学した時点で「応用編」ができる。監督も一から硬式を教えるより、負担軽減になる。

 また学校に合宿所がないことも問題。強化合宿などで、監督も一緒に泊まって、コミュニケーション取りながら信頼関係を築き、試合に臨む。そういう場が少なくなっている。ハード的には他県と比べ、マイナス要素がある。

 石崎透氏 戸部さんの言うことをやろうとすれば、県レベル、市レベルで考え、組織作りが必要になる。たしかに早くから硬式に慣れれば、ボールへの恐怖心も解消できる。組織作りさえできれば、選抜大会では勝っているし、夏でも他校との力の差はない。

 短い練習の中で、どう練習するか考えることも必要だろう。

 2時間ならその時間で何ができるか。監督が集まって研修するとか、社会人とか外部の人を呼んで教わるとか。秋田県は外部を嫌がる県かなという気もする。外の意見を聞き、悪いものは省き、いいものは吸収する。

 考えを柔らかくして改革すれば、今までとは変わった秋田県の野球が実現できるかもしれない。

▽少子化の中 今後の展望は 県レベルの後押し必要

 ――県高野連が部員数を調査したところ、昨年より40人増えて2185人でした。少子化の中で高校野球が停滞するという懸念もありましたが、部員は増えています。今後の秋田野球の展望は。

 戸部氏 チームを強くしなければという基本的な考えは当然ある。だが、一般的な勝ち負けだけでなく、選手もどうすれば自分自身が強く成長できるかを考える必要があるだろう。指導者に言われてやるだけではなく、自ら考えてアクションを起こし、成長しなければ。

 役割分担も進んでいる。監督は監督として、ほかに部外の人間にメンタルな部分を育ててもらう学校もある。監督がもっと勉強して、選手個人ももっともっと自主的にレベルを上げる。そうすれば最終的に全国でも勝てる。選手はどこにいっても大丈夫と、自分自身に自信が持てるだろう。

 石崎氏 秋田県にも、もう少しきちっとしたバックアップ組織があればいい。

 他県では、野球に限らず企業がスポンサーになり、スポーツを盛り上げている。山形はサッカーのJ2のチームがあり、一流企業がバックアップして、下部組織をつくって選手を育てている。新潟も野球チームをつくる動きがある。県レベルで真剣に考える必要があるだろう。

 伊藤氏 これだけの少子化で、スポーツの多様化も進む中、野球人口が増えていることは着目しなければならない。

 最近は野球部の部長になりたくない、という教員の声を聞く。理由は忙しくなったから。疲れ切っていて、土日くらいはゆっくり休みたいと。教員の校務の負担が大きくなる一方で、野球部員は増えている。

 野球が特別なわけではないが、学校や生徒に活力を与えているのもまた事実。応援を見ても、生徒たちが団結し、教育効果もあると思う。野球関係者のわがままと言われるかもしれないが、教員の負担を減らすとか、県の教育界全体でもっと考えるべき問題だ。

▽不祥事の原因や背景は 指導、トップダウン傾向

 ――昨年は北海道の駒大苫小牧で部長の暴力という不祥事があり、高知の明徳義塾でも不祥事がありました。世間には不祥事、体罰への厳しい声があります。秋田では大きな問題はありませんが、依然として高校野球で体罰があるという現状について、原因や背景をどう考えますか。

 伊藤氏 体罰はやっても問題化しないこともあり、だからなかなかなくならない。生徒と信頼関係がないから問題になる、とかいう意見もあるが、体罰は絶対いけない。世代として、体罰を受けて育った人が、体罰をしてしまいがちだ。

 指導者は野球以外の部分も見るし、何十人を1人で指導するのは大変だ。そもそも野球界は安全管理や危機管理の面で遅れている。技術以前に、そういった部分を講習会などで広めていく必要があるだろう。

 戸部氏 指導者は当然責任があるんだから、しっかり生徒とコミュニケーションをとることが必要だ。コミュニケーションを通じて野球の中での教育を考える。監督、部長も緊張感を持ち、やりがいを感じて指導する。指導者の使命感が薄くなってくると、やってはいけないことをやってしまう。また、不祥事については、「学校だけでやってください」と現場任せにしている部分もある。教育委員会も考えてほしい。

 石崎氏 今の時代は指導者が勉強することが大事だ。生徒はインターネットなどでいろんな情報が入り、野球の知識は多い。指導者はより勉強し、かみ砕いて、子どもたちが納得するように教えないといけない。指導者は今の方が大変だ。学校が忙しいといっても、指導者としてきちっと子供たちを育てなければならない。

 戸部氏 監督によくある傾向だが、指導がトップダウンになりがちだ。

 技術をただ教えるだけでなく、普段から指導者と選手との間に会話があれば、選手も自分の意見を言える。「わかったか」「はい」ではなく、選手に責任を持たせ、自ら考えさせて意識を高める。そのためには監督の指導力は本当に大切だ。(司会・坂野康郎朝日新聞秋田総局長)