雪印集団食中毒事件

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本事件は、認定者数14,780人の、戦後最大の集団食中毒事件となり、雪印乳業の社長、石川哲郎が引責辞任に追い込まれた。

2000年6月25日、雪印乳業大阪工場(大阪府大阪市都島区都島南通)で製造された「雪印低脂肪乳」を飲んだ子供が嘔吐や下痢などの症状を呈した。6月27日に大阪市内の病院から大阪市保健所に食中毒の疑いが通報された。6月30日に保健所から大阪工場に製品の回収を指導した。

この頃には各地から食中毒の情報が入ってきていたが、大阪工場は言を左右にして応じようとしなかった。6月29日に事件のプレス発表と約30万個の製品の回収が行われたが、既に対応が遅れ、プレス発表後は被害の申告者が爆発的に増え、大阪府・兵庫県和歌山県など広範囲に渡って、14,780人の被害者が発生するという前代未聞の集団食中毒事件に発展し、世間を震撼させた。

被害者の訴えた症状は、嘔吐・下痢・腹痛であり、総じて比較的軽いものであったが、病院へ入院に至った重症者もいた。

事件直後の7月1日に行われた会社側の記者会見では、大阪工場の逆流防止弁の洗浄不足による汚染が明らかにされた。大阪保健所も、それ以上の原因追究は行わなかった。

2000年3月31日、大樹工場の生産設備で氷柱の落下で3時間の停電が発生し、同工場内のタンクにあった脱脂乳が20度以上にまで温められたまま約4時間も滞留した。この間に病原性黄色ブドウ球菌が増殖して毒素エンテロトキシンA)が発生していたことが原因であった。

本来なら滞留した原料は廃棄すべきものであったが、殺菌装置で黄色ブドウ球菌を死滅させれば安全と判断し、脱脂粉乳を製造した。ところが、殺菌で黄色ブドウ球菌が死滅しても、菌類から発生した毒素の毒性は失われないため、この毒素に汚染された脱脂粉乳を原料にした加工乳製品により子供が食中毒を起こすこととなった。

このため、雪印グループ各社の全生産工場の操業が全面的に停止する事態にもなり、スーパーなど小売店から雪印グループの商品が全品撤去され、ブランドイメージも急激に悪化した。

その際、報道陣にこの事件を追及された当時の社長、石川哲郎は、エレベーター付近で寝ずに待っていた記者団にもみくちゃにされながら、記者会見の延長を求める記者に「では後10分」と答えたところ「何で時間を限るのですか。時間の問題じゃありませんよ。」と記者から詰問され、「そんなこと言ったってねぇ、わたしは寝ていないんだよ!!」と発言。一方の報道陣からは記者の一部が「こっちだって寝てないですよ! そんなこと言ったら! 10ヶ月の子供が病院行ってるんですよ!」と猛反発。石川哲郎はすぐに謝ったものの、この会話がマスメディアで広く配信されたことから、世論の指弾を浴びることとなった。

その後の混乱

雪印グループは、スキージャンプアイスホッケーなどウィンタースポーツの振興に寄与していたが、雪印グループの再編により雪印の実業団は、(スキージャンプのチームである)「チーム雪印」を除き廃され、多くの選手が競技を続けられなくなった。長引く不景気により多くの企業が実業団に資金を注げなくなったこともあり、1998年長野冬季オリンピックではスキージャンプで金メダルを獲得するまでに至っていた日本のウィンタースポーツは急速に凋落した。

影響は雪印に留まらなかった。他の乳業メーカーへ注文が殺到したために、乳業各社で生産・配送が受注に追いつかなくなった。また、乳業以外の食品メーカーでも衛生管理をめぐる不祥事が明るみにされたり、パントマトジュースなどをはじめとした食品への異物(など)が混入する騒ぎなど、食品業界全体の食の安全に大きな影響を与えた。

さらにこの事件が社会に与えた影響として以下のものが挙げられる。

  • 成分無調整「牛乳」への需要の集中などにより、夏場の「牛乳」不足が深刻となる。
    • 当初、牛乳・乳製品の需要は低下すると予測され、同業各社は減産を検討していたが、予測に反してほとんど需要が低下しなかった上、最大手の雪印乳業が事実上操業停止に追い込まれたため、明治乳業(現:明治)・森永乳業などの大手から地域の零細メーカーまで、フル操業でも需要を満たせないような状況になった。
    • お膝元である北海道では、雪印全工場の操業停止により「地元で作られた牛乳を地元で飲めない」という問題が発生。中でもパイロットファームで有名な、根釧原野を有する釧路・根室地方では、市乳工場であった雪印釧路工場が撤退していたため、他地域以上に問題視された。このためよつ葉乳業は首都圏向け商品に特化していた根釧工場で、2004年から「根釧牛乳」を生産・発売することとなった。
  • 乳製品の再利用について、2001年5月に社団法人日本乳業協会が「飲用乳の製品の再利用に関するガイドライン」を作成し、「工場の冷蔵管理下にある一定量の製品についてのみ行われる」ことが決定された。
  • 大阪工場が総合衛生管理製造過程HACCPが要件、厚生労働省が審査/承認)承認工場であったことから、それまで書類審査のみであった承認審査に現地調査が導入されるとともに、3年ごとに更新申請が必要とされるなど、「総合衛生管理製造過程」見直しのきっかけとなった。
  1. ただしこれは自己申告を中心とする数字であり、額面通りには受け取れない。医学的な検討により、第3次診定で食中毒と認定できたのは13,420人に減少しており(『時事ニュースワード2001』(時事通信社)はこの数字を被害者数としている)、さらに最終の第5次診定では4,852人まで減少している。
  2. この記者会見についても会社側のずさんな対応が語り草となっている。社長は会見内容を事前にまともに聞かされておらず、会見中の担当者の発表に驚き「君、それは本当かね」と口を挟む始末であった。
  3. 雪印では、「Roots」ブランドによるテトラパック入りのミルクコーヒーをスーパーマーケットとコンビニエンスストア、雪印牛乳販売店の販売ルートで発売する予定だった。
  4. なお、『Roots』ブランドは、JTとキーコーヒーの2社で展開していたが、2015年9月、JTが飲料事業から撤退してサントリー食品インターナショナルへブランドを譲渡した(2016年1月時点)。