2012年04月02日
経済不祥事に見る利益や損失の概念その1
講師 平山 実(公認会計士)
株式会社インプレス
ソリューションサービス事業部

1.あるセミナーでの出来事

私事で恐縮ですが大学卒業後は大手金融機関に勤務し証券部配属となりました。そこで日経平均3万8千円というバブルの時代、その後のバブル崩壊を経験し、自分のキャリアに危機感を持ち資格を取得し今にいたるものですが、入社3年目にとある大手証券会社の泊り込みセミナーに参加したことがあります。

私のような新人を中心に、参加者はグループに分けられ、投資有価証券や国債などが組み込まれている金銭信託が与えられました。課題はこれらの金融商品の組み合わせ(ポートフォリオ)を今後の予想にのっとり、おのおの売買をして組替をして行くというものでした。

最終日にポートフォリオの組替結果を各グループとも発表し、金銭信託の構成商品の社債の平均償還年度を何年延長したとか、平均配当利回りを何%高めたなどを報告し合っていました。しかし、あるグループの発表は全く違うものでした。

そのグループの発表者曰く、この金銭信託は開始後1年を経過しているにも係らず、管理資料上、全ての構成金融商品の含み損益が0円となっている。これは粉飾以外の何ものでもなく、このような管理体制ではポートフォリオ改善などの前に、含み損益の操作は違法であるというそもそもの前提に気付くべきと言う研修目的の大前提を覆すものだったのです。

他のグループの中には、一方的なその発表に反発している人もいましたが、結果、それが研修の模範解答だったのです。私たち新人は皆、金融機関の証券部や国際部に所属していながらポートフォリオについてはただ与えられるだけではなく、その成り立ちにも気を配るべきと言う基本の基本が判っていないことを痛感させられたのです。

日本の会計に時価会計が導入されるずっと前の話です。90年にバブルがはじけたと言われ2年もたった頃でした。さらにその数年後、大手証券会社が現引きと言われる手法で大口顧客に『損失補填』したとして証券取引法違反に問われた際、私はこの研修を思い出したものです。

2.経済不祥事のパターン

私の記憶している限り、それまでの経済不祥事は俗に言う架空売上を中心としたものでした。他では簿外負債と言うものが中心だったように思います。これら経済不祥事はパターン毎に分類すると以下のように分けると思うものです。

会計上の観点からパターン分類して、大きく二つのに分けるものです。1つ目は貨幣換金性の裏付と言う『実現性』の観点です。『実現性』が無いとは、ここでは貸借対照表(以下BS)、損益計算書(以下PL)の記載項目が端的に言うと実態の無いものであるということです。

2つ目は支出や収入と言う実態はあるもののいずれ換金される『資産』として経理処理するか、既にサービス等の対価を受けているため換金はされない『費用』や『損失』として経理処理するかと言った重要な会計上の分類、すなわち『表示分類の妥当性』の観点から問題ありとするものです。『表示分類の妥当性』に問題ありとは、BS、PLの記載に実態はあるものの、BSとPLの内容に入り繰りが生じていたり、簿外に隠され計上していないというものです。

架空売上についてはその名のとおり架空ですから『実現性』の観点から問題があると考えます。対して簿外負債はいずれ返済しなければならないという『実現性』は備えているものの、それがBS未計上なので『表示分類の妥当性』に問題ありと考えるものです。

この分類パターンで行くと先の『損失補填』は貨幣的な裏付は大手証券会社が負っているものの、『表示分類の妥当性』に相当すると考えるものです。証券会社による損失補填はそもそも不法行為なので禁止ですが、会計上の観点に限れば本来は『投資損失』と『損失補填による利益』といったように費用、収益の両建でPL計上すべきものなのです。

3.会計制度の変化、ファンドを利用した経済不祥事

ちなみに簿外負債にするため、金融商品や登記目的で購入した不動産などの含み損を隠す手法として多く採用された手法が、子会社を利用するといったものでした。そのためそれまでの親会社の個別決算中心から、連結決算を主とし金融商品を時価評価するいわゆる会計ビックバンと呼ばれる制度改正が起こったのです。いわば、証券会社による損失補填という経済不祥事が今日の連結決算中心の企業経営を生んだのです。

ところが、今度はその仕組みをすり抜けるために、子会社に代わりファンドと呼ばれる金融商品が悪用されはじめたのです。実質子会社と変わらないファンドを金融商品として連結決算上は対象外としつつ、損失先送や簿外負債を計上する手段に使ったのです。同様に本来は資本に計上すべき項目を収益に付け替える粉飾決算に利用されたりもしたものです。

具体的には、上記カリスマ性を持つ若手経営者が引き起こした経済事件ですが、通常は金融商品は例えば国債や株式を代表とするように、利息や配当また売却差損益や含み損益は発生しますが、組織体ではありません。しかしファンドについては出資を元手に、ファンド管理者が複数の金融商品を売買を通じファンドの構成を変化させていくのでその過程で、実態は子会社と何ら変わることのない組織体となっていたものです。ファンドの出資者は所有者としてファンドを組織体として動かし親会社本体では禁止されている自己株式の売却差益を資本ではなく利益として計上していたのです。同様に昨年の光学老舗メーカーはファンドを通じ含み損のある株式などを引受させたり、負債を簿外処理したものです。その上で、ファンドを重要性の少ない金融商品と虚偽の評価をして、開示対象から外す会計処理をしたものです。

4.経済不祥事の何が問題か?

次回は引き続きもう少しファンドの持つ性質を詳細に説明しようと思います。その上で、様々な前述の経済不祥事を分類し、何が問題なのかについて解説していきたいと思います。そして本題の『経済不祥事に見る利益や損失の概念』について最終的に明らかにしたいと思います。