コンプライアンス違反から生じる影響

企業経営が受ける大きなダメージ

企業のコンプライアンスに対する姿勢に社会の関心が高まったことで、いったん問題が発生した場合に企業が受けるダメージもいちだんと大きくなった。実際にコンプライアンス違反が原因で倒産した企業、事業の大幅な縮小を余儀なくされた企業は多い。仮に存続したとしても、その企業ブランドは激しく傷ついており、信頼回復には長い年月が必要となる。本章では、コンプライアンス違反が起こった場合、企業にはどのような影響があるのかを整理してみたい。

信用の失墜

法令違反そのものも大きい問題であるが、同時に「社内のコンプライアンス体制に不備があった、つまり内部統制の効いていない企業」というイメージが一気に広がる影響は大きい。たとえ問題点を是正したとしても、コンプライアンス違反を起こした企業風土は変わっていないのではないかという目で見られ続けることになるからだ。数十年かけて築き上げた信用も、失われる時は一瞬である。

1)消費者・取引先からの信用

消費者や取引先の信用を失うと、不買や取引自粛などによって売上げが大きく低下することになる。特に、消費者向けの製品やサービスを提供していた企業にとっては決定的なダメージとなることも多い。2000年代に多発した食品偽装事件などはその典型と言えるだろう。従来、マスコミが大きく報じない事件は、あまり一般に知られることもなく、時間の経過とともに忘れられていくのが普通だった。しかし、近年は小規模な不祥事でも、インターネットなどによって一気に火がつき社会問題化することは珍しくない。ネット世論によって不買運動が広まったような例もある。

2)株主からの信用

売上・収益が低迷すれば株価が下がるのは自然なことだ。しかし、その原因がコンプライアンスの問題であった企業は、その企業を信頼して長期的に株式を保有していたような安定株主からも見放されてしまうおそれがある。

3)求職者からの信用

事業を継続することができた場合も、採用競争力が低下するリスクは避けられない。一般にコンプライアンス違反は、その企業の社内風土に問題があると考えられている。違法行為が発生するような企業風土の中で長期間働きたいと考える人はまれだろう。良い人材が採用できないと、長期的に企業力が低下していく恐れがある。

行政からの罰則・処分

法令違反に対する行政の対応は、近年着実に厳しくなっている。独占禁止法が改正され、違反した場合の課徴金や個人への罰則が強化されたのは、その代表例だ。また、従来はいったん是正命令を出し、それに従わなかった場合のみ罰則を科すというやり方だった分野でも、2000年代以降は、違法行為が確認された段階で摘発や処罰が可能になる「直罰規定」を法律に盛り込む例も現れている。今後もこの流れは強まっていきそうだ。

行政側が処罰を厳しくしている背景には、企業内のコンプライアンス体制の整備を後押ししていこうという狙いがある。コンプライアンス体制の構築や運用は企業にとっては負担となるが、問題を引き起こして厳しく罰せられるよりはよいという合理的な判断をする企業が増えるからだ。

処罰の厳しさでいえば、欧米を中心とする海外は日本よりもはるかに厳しい。行政からの罰金だけでも数百億円に達する場合がある。海外で活動している企業、あるいは海外との取引を行っている企業は、こうしたリスクにも注意を払う必要がある。

損害賠償・株主代表訴訟

日本でも、1993年の商法改正によって、株主代表訴訟の手続きが大幅に簡素化された。つまり、コンプライアンス違反で企業がダメージを受けた場合、株主は経営陣に対して、必要なコンプライアンス体制の構築を怠った責任を問い、損害賠償を求める訴えを起こすことが現実的となっているのだ。その結果、司法が経営陣の責任を認めれば、取締役は私財で賠償を行わなくてはならない。

企業にとっては損害が補てんされる効果もあるが、経営陣が訴えられ法廷で争うような事態となれば、企業経営は停滞し、また社会的イメージや信頼も大きく損なわれる。また、裁判費用や時間なども負担となってのしかかってくる。

海外では、製品などに問題があった場合、米国を中心に消費者による大規模な集団訴訟(民事の損害賠償訴訟)に発展することがある。原告が多いと和解金は数百億円に達する。また、セクハラのような主に個人に起因する問題でも、その慰謝料は日本では考えられないような巨額なものになることがある。

企業風土の荒廃

仮にコンプライアンス違反が表面化しなかったとしても、目先の利益を優先し、違法行為を当然とするような事業運営を行っている企業では、従業員が不正を当たり前と感じるようになってしまう。すると、従業員も「会社が法律を守っていないのだから、自分も会社に対して忠誠心を持つのはばかばかしい」と感じるようになり、消費者や取引先への不当な営業、あるいは自社の物品や資金の横領、不良品の見逃しといった問題を起こしやすい環境になる。当然、離職者も増えることになるだろう。

また、コンプライアンスの問題が表面化し、消費者のボイコットなどによって製品が売れない、サービスが利用されないとなると、従業員のモラルを維持していくこともいっそう難しくなる。それが長期化すれば人員整理などが予想され、より一段と社内の雰囲気が悪くなるリスクを抱えることにもなるだろう。


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