解説に述べた通りですが、現代社会の特徴は何といっても「情報犯罪」であることに留意すべきです。

1.社内犯罪とその対策の重要性
 「社内犯罪」とは、読んで字の如くある会社内で発生した役員や従業員の刑罰法規に触れる行為のことを言いますが、「そのようなけしからん奴は、即刻社内で懲戒処分(解雇、減給、訓戒等)の対象にしてしまえば事が足りる」とするような考えでは時代遅れとしか言えません。思うに、現代社会は、科学技術の進歩により人間がより高度な利便性を享受できるようになった一方で、従来にもまして多様で巨大な損害(リスク)を負うという可能性が大きくなりました。といいますのも、現代企業はその活動範囲が拡大し、収益拡大の可能性を増大させている一方で、未知の分野に参入することで損失拡大の危険を高めておりますし、インターネットをはじめマスメディアの発達には目覚ましいものが有り、場合によっては、人間の制御能力を超えるような場合も生じ、世界中の出来事をリアルタイムで世界中の人々に情報を伝達しており、良きにつけ、悪しきにつけ、一瞬のうちに企業イメージが形成されたり遂にそれが容易に変えられたりする時代に突入しております。 このような現代社会の諸事情が相互に絡み合って、現代企業のいわゆる「リスク管理」の重要性が、注目されてきており、「社内犯罪」もその中に位置付けられて真剣に会社として対処しなければならない問題となっているのです。」
2.社内犯罪の類型
(1)刑法関係

【1】窃盗罪・業務上横領罪
 社員が、無断で会社内の機密資料を持ち出したような場合、その社員に機密資料の管理権限がないときは、窃盗罪、管理権限があるときは、業務上横領罪が成立します。 もっとも、自分の頭の中にあるものや、文書化していない企業秘密を外部に漏らしたとしても、窃盗罪に問うことはできません。なぜなら、それは刑法の窃盗罪の客体である「財物」とはいえないからです。
 ただし、企業秘密に関する情報が漏れて、機密を保持することの利益を失い損害を受けた場合には、機密を開示した社員に対して民事上の損害賠償を請求することは可能です。

【2】業務妨害罪
 たとえば、技術部の部長が、大半の部員を引き連れて独立したよう場合が、考えられます。業務妨害罪は、業務の正常な運営を乱す恐れのある状態さえ生じれ ば成立します。実際に業務の遂行を、まったく不可能にする事態でないと成立しないというわけではありません。

【3】詐欺罪
 経理処理についての権限がない社員が、個人の遊興費を、あたかも顧客の接待費であるかのようにみせかけ、会社からその費用相当分を騙し取ったような場合がこれに該当します。

【4】背任罪
 典型例としては、回収の見込みがほとんどない得意先に、貸し付け権限のある銀行員が多額の貸し付けをしたところ、得意先が倒産して焦げ付かせてしまった場合が挙げられます。背任罪と業務上横領罪との区別については、解釈上争いがあるところですが、一般的には、背任罪は自らの任務との関係で権限を濫用して行われるのに対して、業務上横領罪は、背任された自らの任務とは関係なく権限を逸脱して行われる場合と考えてよいでしょう。

【5】毀棄罪
 典型例としては、社員が会社に対する腹いせに会社の備品などを壊したり、社内の重要文書を棄てた場合が挙げられます。

【6】強制わいせつ罪
 最近、大きな社会問題の一つとなっている社内犯罪の一つとして、セクハラ(セクシャル・ハラスメント)が挙げられます。セクハラとされるものには、〈1〉猥談、〈2〉肉体的特徴への言及、〈3〉性的行為などの要求、〈4〉身体接触その他、などがありますが、〈4〉の段階に至ると、強制わいせつ罪に該当します。

【7】コンピュータ犯罪
 近年、コンピュータの普及に伴い、銀行業務を始めとする多くの取り引き分野で、人を介さずに電磁的記録によって自動的に処理される取り引き形態が増加してきました。そこで、このような取り引き形態の悪用を防ぐため、前記のうち【2】と【3】と【5】については、234条の2(電子計算機損壊等業務妨害罪)、246条の2(電子計算機使用詐欺罪)、259条(これは従来の私用文書等毀棄罪の構成要件の行為の客体に、電磁的記録を追加したもの)が、87年の刑法改正で新たに設けられています。

【8】有価証券偽造罪
権限のない取締役などが、勝手に手形などの有価証券を振り出す場合があります。このような場合は、有価証券偽造罪に該当します。

(2)商法関係

【1】特別背任罪
 これは行為の主体が単なる従業員でなく、会社の役職員の場合に成立するものです。典型例としては、会社の取締役も兼務する支店長などが、不良貸付をしたような場合がこれに該当します。

【2】とく職罪
 この犯罪としては、会社の役職員の収賄罪と、それに対する贈賄罪が該当します。たとえば、A社の取締役がB社に銀行から不良貸付を行わせ、その謝礼として、B社から金銭を受け取ったような場合です。この場合、必ず相手方から「不正な請託」つまり「違法行為を依頼」されることが構成要件になっています。

(3)その他の特別法関係
 証券取引法にかかる罪近時マスコミを賑わせている「インサイダー取引」を規制するもので、88年の証券取引法改正の際に新設されたものです。「インサイダー取引」とは、一般に、会社の役員職等が、一般投資家の知らない会社内部の情報を知りながら、その会社の株券の売買を行うことです。
対応策
 以上のような社内犯罪の類型をしっかりと理解した上で、設問[7-1-2][7-2-1]を参照しながら、これからの社員に対する労務管理を充実させること肝要です。

(C)2002 Makoto Iwade,Japan