フォルクスワーゲンで何が… “排ガス不正”の真相

今月(10月)8日に開かれたアメリカ議会下院の公聴会。
フォルクスワーゲンのアメリカ法人の社長が厳しい追及を受けました。

「コストを抑えるために不正をしたのですか?」


フォルクスワーゲン・アメリカ法人 ホルン社長
「誰かが間違った決定をしたのです。」

「あなたは本当に上層部が不正を何年も知らなかったと信じているのですか?」

フォルクスワーゲン・アメリカ法人 ホルン社長
「本当に信じられませんが、その通りです。」

フォルクスワーゲンは現在、不正の詳細や動機などをほとんど明らかにしていません。

一体、不正はどのように行われたのか。
アメリカの研究者を取材しました。
フォルクスワーゲンのディーゼル車の排ガスを調査し不正を見つけた、ダニエル・カーダーさんです。


ダニエル・カーダーさん
「こちらが計測装置です。」

カーダーさんは独自に排ガス計測器を複数のメーカーの車に取り付け、路上を走って測定しました。
すると、フォルクスワーゲンの車から驚くべき結果が出たのです。

ダニエル・カーダーさん
「基準値の35倍の数値が出たんだよ。」

緑の点線で示された法令の基準値をはるかに上回る窒素酸化物が排出されていました。


ダニエル・カーダーさん
「フォルクスワーゲンの結果には衝撃を受けました。
全く想像していませんでしたから。」



フォルクスワーゲンの車は、カリフォルニア州の検査はパスしていました。
この検査は、路上ではなく室内のローラーの上で車を走らせ、排出される有害物質を測定します。



実際の検査結果です。
基準値の0.05グラムを下回り、問題はありませんでした。
路上と室内で、なぜこれだけ大きな違いが生じたのか。
カリフォルニア州は、車に不正なソフトウェアが搭載されていることを突き止めました。


カリフォルニア州大気資源局 スタンレー・ヤングさん
「コンピューターの中には、車が検査中なのか、実際の道路を走っているのか見分けるソフトウェアが入っていました。
検査中には排ガスの基準を満たしていて、路上走行の時には有害物質をばらまいていました。」

室内検査ではアクセルやブレーキを踏む走行パターンがあらかじめ決められています。
また、ハンドルはほとんど動かしません。
車に搭載された不正なソフトウェアは、こうした運転データから検査中であることを察知します。
その際は、排ガス処理装置をフルに稼働させて検査をクリアしていました。

一方、ハンドル操作やスピードの変化などから路上走行と判断した場合には排ガス処理の機能を低下させ、有害物質をほぼそのまま排出していたのです。
ディーゼル車の排ガス処理装置をフル稼働させると燃費や走行性能が悪くなるとされています。
この課題を乗り越える高性能の処理装置もありますが、コストがかさむため、フォルクスワーゲンは不正なソフトウェアの使用に踏み切ったと見られています。

フォルクスワーゲン 問われる企業体質

不正の背景には、自動車業界のしれつな競争がありました。
フォルクスワーゲンは世界一を目標に掲げ、ここ10年で販売台数を2倍に増やしてきました。
しかし、市場規模が世界2位のアメリカでは、環境に優しく燃費のよいハイブリッド車に大きくリードされ苦戦していました。

“フォルクスワーゲンのディーゼル車は、クリーンで燃費にも優れています。”

そこで打ち出したのは、クリーンディーゼル車でシェアを拡大する戦略でした。
ドイツの自動車専門誌で編集長を務める、イェンス・カーテマンさんです。
長年、フォルクスワーゲンの取材を続けてきたカーテマンさんは、世界一を目指すうえで焦りがあったと見ています。

自動車専門誌 編集長 イェンス・カーテマンさん
「BMWやベンツと違って、フォルクスワーゲンは価格の安い車をアメリカで売り出すことが狙いでした。
そこで問題となるのが、アメリカの厳しい環境基準を満たすと同時に価格を抑えることです。
その方法を見いだせずに、不正を行うことを決めたのだと思います。」

7年以上にわたって隠蔽されてきた今回の不正。
カーテマンさんは、企業風土にも問題があったと指摘します。

自動車専門誌 編集長 イェンス・カーテマンさん
「フォルクスワーゲンは上層部が厳しく部下を指揮していて、権力をもった一部の管理職がすべてを決めていました。
こうした企業風土では間違いを認めるのは難しいのです。
つまり、もみ消されます。
そうでなければ何年も不正が続くことはありえないと思います。」

ドイツ最大の企業の不正は、ヨーロッパ経済へも大きな影響を与えかねないと懸念されています。
特に深刻な問題となっているのが、本社のあるドイツ・ウォルフスブルク市。
歳入の半分をフォルクスワーゲンからの税金に頼ってきましたが、今回の問題を受けて予算案の先送りを決めました。

ウォルフスブルク市 クラウス・モールス市長
「財政的に厳しい時期を迎えることになるでしょう。
大きなプロジェクトはいつ実現できるか分かりません。
早く真相が解明されることを願っています。」

フォルクスワーゲンで何が… “排ガス不正”の真相

ゲスト中西孝樹さん(自動車アナリスト)

●関係者の間の空気は?

(ヨーロッパから戻ったばかりとのことだが?)
正直申し上げて、まだ情報が非常に限られていて、困惑している雰囲気があったと思います。
ただやはり、自分たちの力であるディーゼルの技術に対しては、先行きに対して、少し悲観する声がやっぱり多かったです。
あとは次の技術として、電化、いわゆる電気自動車だとか、ハイブリッド、あるいはプラグインハイブリッドのようなこういった電化の技術というのが、より重要度を増すんじゃないのかなという空気を感じましたね。

●フォルクスワーゲン社にとって、ディーゼル車の販売が占める割合とは?

世界では大体20%程度と思っていいと思います。
大きな販売台数を占めている中国市場が実はガソリン中心ですので、ディーゼルが多いのはヨーロッパ。
ですから、今回、大きな問題になっていますけれども、影響を強く受けるのはその20%の部分だというふうに見ています。

●堅実なイメージの企業だったが、なぜ消費者を裏切るような不正を犯した?

そうですよね、大変残念ですね。
とてもいい技術を持った会社だと思っていますが、今回、まだファクトファインディングの段階ですので、断定的に原因が分かっているわけではありませんが、私は大きく3つ理由があったと思っておりまして、1つ目は先ほどのVTRにもあった、成長を非常に急いだと、2つ目には技術的な難しさがあった、3番目には企業のカルチャーの問題だと思います。

その技術的なところで、少しこのボードを使って説明をしますと、アメリカは、実は、この排ガスの規制ですね。
これが2004年から、今のヨーロッパの規制の倍以上厳しいという、非常にこの問題をクリアするのは難しかった、そういう市場です。
ですので、この排ガスをクリアしながら、価格と燃費と走行性能、全部をクリアするのは、恐らく2007年とか2008年当時の技術では、かなり厳しかったと。
そういうことでこの排ガスの技術を少し抑えてしまおうと。
それであれば、フォルクスワーゲンらしい走りだとか、燃費性能を実現した車ができるという、こういったねらいがあったんだと思います。
ただ、時代がたつと、走行中の排ガスをきちっと測定していくという技術がだんだん進化してくる。
実はこのエンジンを出した2008年当時は、そういった技術があまりよく見えていなかった。
これが2010~2011年ぐらいから、かなり確立してきまして、どうもこの排ガスがきちっとコントロールできていないんじゃないかと、業界の中でも大きな認識になってきていて、今回、調査の中で、その不正なソフトでこれを抑えているということが判明したと、これが実はアメリカでの原因の1つだと思っていますね。
(実際に走行して調べられるようになったことも、今回、判明したこと?)
これ、大きな技術革新でした。

●フォルクスワーゲン社の一般株主は12% 普通のグローバル企業はもっと一般株主の比率が高いのでは?

そうなんです。
ですから、ここがフォルクスワーゲンの会社の非常に特殊な、複雑な背景になっていまして、もともとはこれ、国民車を作る会社ですので、公益会社ということで、ドイツの州政府が多くの比率を持っていた会社です。
ところが、成長する過程の中で、ピエヒ家とポルシェ家、いわゆるポルシェを経営した一族なんですけれども、フォルクスワーゲンとポルシェが一緒になるという形、こういった形で非常に組織が大きいんですけれども、一部のファミリーが議決権の51%を握り、かつ州政府も20%を握りという形で、ちゃんと会社のガバナンスみたいなものを確立することが、大きくなる過程の中でできなかった。
もう1つ、このピエヒさんですね、22年間、実は社長と監査役会の会長という形で、会社の事実上のトップとして君臨しました。
ですから、監査役会の会長自体が会社を事実上運営するという形になると、きっちりと監視をするということもできない、そういう成り立ちがこういった不正の背景にあった可能性はあるというふうにいえるんではないかと思います。

本当にクリーン? 排ガス検査への不信

スモッグでかすむフランス・パリ。
ここ数年、大気汚染が社会問題となっています。
その原因の1つと見られているのが、自動車の排気ガスです。
パリ市では、汚染がひどい日には車のナンバーによって市内での走行を規制しています。

「偶数ナンバーは走れませんよ。」

フォルクスワーゲンの排ガス不正問題を受けて、ディーゼル車への風当たりが強まっています。



イダルゴ パリ市長
「ディーゼル車をパリ市内から一掃します。
そのために、パリ市長としてあらゆることをするつもりです。」


排ガス規制は厳しくなっているのに、なぜ大気汚染は収まらないのか。
環境団体や調査機関の間では、クリーンディーゼル車が実際に出している排気ガスを調べる動きが広がっています。

各国の専門家が参加するNPO国際クリーン交通委員会が去年(2014年)まとめた報告書です。
アメリカとヨーロッパで室内の検査をパスしたディーゼル車15車種を対象に路上で排気ガスを測定。
その結果、窒素酸化物の排出がヨーロッパの今の基準内に収まったのは、僅か1車種でした。

排ガス調査会社 ニック・モルデンCEO
「ディーゼル車の窒素酸化物の排出レベルは平均して基準の4倍です。
多少オーバーしているというレベルではなく、何倍もオーバーしているのです。
ただ、違法行為とまでは言えません。
むしろ現在の検査システムに原因があるかもしれません。」

“排ガス不正”を防げ 路上検査 導入へ

ヨーロッパ議会では、室内だけでの検査に批判の声が上がっています。

「路上走行と検査の時とで説明のつかない違いがあると分かっていながら、なぜ具体的な調査をしなかったんですか?」

「ヨーロッパの政府やEUではなく、アメリカ政府が調べて不正ソフトが見つかったというのは恥ずべきことです。」

ヨーロッパ議会のヘルブランディ議員です。
路上での排ガス検査の早期導入を訴えてきましたが、なかなか進まなかったといいます。

ヨーロッパ議会 ヘルブランディ議員
「ヨーロッパの空気をきれいにすることは重要な目標です。
自動車業界によって損なわれることがあってはなりません。
ヨーロッパ委員会は、数か月以内に路上検査を始めるべきです。」

今回の不正を受けて、ヨーロッパの一部の国では独自に検査方法の改善に乗り出しています。
フランスでは各メーカーのディーゼル車、合わせて100台に対する緊急の抜き打ちテストの実施を決めました。



フランス ロワイヤル エコロジー相
「フォルクスワーゲンが不正をしたからといって全ての会社を疑うわけではありませんが、この機会に排ガス検査を適正な形にすることはよいことです。」


一方、ヨーロッパの自動車メーカーで作る団体は声明を発表。
路上での排ガス検査の必要性を認めつつ、対応には時間がかかるとして、猶予期間を設けるべきだと主張しています。
欧米と同様に、室内での検査を行っている日本。
自動車の排ガス規制に詳しく、政府の委員も務める専門家は、検査の見直しは世界的な流れだといいます。

早稲田大学 大聖泰弘教授
「大気の改善を行うのが本来の規制の趣旨であるわけですから、実際の道路を走るような条件で排ガスを評価することが必要になってくる。」


国土交通省も検査の見直しに言及しました。

太田国交相(当時)
「現在の台上検査だけで適切な検査ができるか、十分に検討していきたい。
実走行時における排出ガスのサンプリング調査を実施することを検討したい。」

本当にクリーン? 排ガス検査への不信

●排ガス問題は大変な課題になってくる?

そうなんです。
こんなに、かい離しているものを放置してたのは、皆さん、きっと驚きだと思うんですね。
ただこれ、決して放置していたわけではなくて、先ほども申し上げたように、実は実走行で測る技術というものが、きちっと確立できていなかった。
実際、そういう技術が出来たのはここ数年。
それで測ってみると、結構それが大きな問題であるということは認識されてきていて、規制当局、業界合わせて、その問題を解決しようという、そのやさきに実は今回の不正が見つかったという形になっています。

●世論の空気から見ると、走行しながらのテストを早く導入すべきという声が上がっているが?

これ、実は業界にとっては、大変大きな問題になってくるんですね。
こちらのフリップをもう一度使いますが、実は業界の認識としては、この排ガスの問題というのは、おおむねクリアできたというのが業界の認識で、これから燃費性能をどんどん高めて、地球温暖化に対する環境問題をクリアするということで、2020年、2025年って、非常に厳しい規制が敷かれるスケジュールになっていると。
ところが、今回は路上テストでちゃんと規制値まで排ガスを落とそうということになると、排ガスの問題が、また再び大きな問題になってきていて、この2つの燃費と排ガスを両方規制をクリアしながら、かつ価格を抑えて走行性能を保つというのは、実はこれは本当に大きな問題で、ディーゼルは大変難しい問題を抱えたといえます。

●ヨーロッパ市場の半数を占めるといわれるディーゼル車、エコカーの競争は今後どういうフェーズに入っていく?

やはりこのディーゼルは、しばらくは規制の厳しさと、技術革新のギャップというのが少し開いてしまいますので、エンジンとしての競争力はしばらく厳しくなると思います。
そういう意味においては、ディーゼルに代わる新しいエコカーの技術が台頭する可能性はあるんですけれども、ただ、ディーゼルなしに将来の燃費規制をクリアできるのかというと、これは現実的にやはり必要な技術ですので、そこはいろんな技術革新をしながら、ディーゼルが信頼できる、かつ環境にいいエンジンとしてもう一回再生をしてくるということが必要だと思います。
ただ、エコカーの分野にいけば、やはりディーゼルもガソリンもなかなかこういった路上テストの中で厳しくなっていくとなれば、やはり電化の技術を使った電気自動車だとかプラグイン、こういったところが、より有望になってくるという可能性は十分に考えられると思います。

●ハイブリッドの技術で世界をリードしている日本の車が優位になる?

短期的な目線で考えれば、やはり追い風なんだと思うんですね。
ただ、重要なことは、自動車の将来の技術を見渡した時に、本当に短期的なエンジンの性能で勝敗が決まるという形にはなっていないと。
自動車というのは、本当に100年に1回ぐらいの大変大きな技術革新の時代を迎えています。
ですので、今後は自動運転だとか、あるいは通信技術だとか、あるいは電化技術みたいな、そういったエレクトロニクスと車が融合する、こういったところで欧州メーカーはどんどん勝負をしてくると思いますので、決してこの結果において、日本の自動車メーカーが勝ち組になると油断をしてはならないと思っています。

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