『ウルトラマンコスモス』主役の逮捕と釈放

                                

大西 赤人       



 鈴木宗男議員のように、逮捕がほとんど予告されていてタイミングだけが図られているような状態であれば、「“ため”にする疑惑」と吼《ほ》えまくる余裕も生まれるけれど、ある日突然に「あなたを逮捕します」と言われたら、常習的犯罪者でもない限り、大抵の人は目の前が真っ暗になることだろう。

 先月半ば、テレビ番組『ウルトラマンコスモス』で主役のムサシ隊員を演じている俳優が、恐喝と傷害容疑で逮捕されたとのニュースが流れた。ただし、事件当時は未成年だったために、氏名はひとまず伏せられていたけれども、これはちょっと調べれば一目瞭然、映画『ウォーターボーイズ』などにも出演していた杉浦太陽(21歳)のことである。彼の容疑については、たとえば次のように報じられていた。

「タレント(注:杉浦のこと)は、00年9月渋谷区の路上で、守口市在住の専門学校生(19)に対し、友人と2人で暴行を加えてろっ骨を折るなどのけがをさせたうえ、現金30万円を要求。専門学校生が要求に応じないため、同年10月中旬にも同市内の駐車場に呼び出し、顔を殴るなどして60万円を要求。12月から昨年3月までに計4回に分けて45万円を口座に振り込ませた疑い。
 タレントは容疑事実を認め、『専門学校生が自分の家から現金を盗んだのが原因だ』などと話している」(6月14日付『毎日新聞』)。

 メディアによっては“「正義の味方」が犯罪者”というような揶揄の気配も見られ、番組を放送していた毎日放送は早速「子どもたちの夢を壊すことになったのは誠に遺憾」として打ち切りを決定、8月に公開が予定されていた映画版についても、配給元の松竹は、杉浦の出演シーンを消すという意向を固めてしまった。まあ、正直言って僕も、『若気の至りにせよ、せっかくの役どころを棒に振ったねえ』程度に通り過ぎていたのである。

 ところが、しばらくして事態は急変した。先の記事をよく見ると判るように、杉浦は、約一年半ばかり前の出来事について逮捕されており、これは、昨年4月に出された被害者の被害届に基づいていた。ところが、その傷害事件が守口市で起きたとされる当日(2000年10月17日)、杉浦は東京で映画の収録を行なっていたというのである。そして――

「ムサシ(注:杉浦のこと)がケガをさせ、恐喝したとされる少年(19)が『事件自体が狂言』との陳述書をムサシ側弁護士を通じ大阪地検に提出したことが28日、分かった。
 一部スポーツ紙が伝えた陳述書によると、少年がムサシ側に振り込んだ45万円は、少年が何度も盗んだ金を返すと約束したためのもの。
 ろっ骨骨折の傷害は、ムサシではなく『不良グループ約10人に殴られた』が、『仕返しを受けるのが怖くて』ムサシに殴られたと警察にウソをついたという。
「告訴から1年以上が経過し、『自分のウソが大きくならずよかった』と安堵していた少年は今回の逮捕劇に驚き、『殴られた本当の相手を警察に話したが、「メンツがあるから」と取り上げてくれなかった』とする。
 事務所などは『(ムサシは)一度も任意の事情聴取などされず、今月14日にいきなり逮捕された』などと捜査の不備を指摘していた」(6月28日付『夕刊フジ)

 どうも逮捕は失策・行き過ぎだったように見えたけれども、警察はメンツの確保に必死。

「この陳述書に大阪府警は大慌て。再度この専門学校生から事情聴取を行った。そしてこの日、同府警は陳述書については『被害者が(杉浦の)弟に呼び出され、守口市のホテルに行くと(杉浦の)弁護士がいて、ワープロ打ちの下書きをもとに書かされた』と説明したが、逮捕容疑が大きく揺らいだことで『逮捕事実が違う』と発表。暴行の日付を00年10月17日から同年12月上旬に、暴行も『全治3週間』から『鼻血程度』に変更した。逮捕容疑を変更することで収拾を図ったものとみられる」(7月3日付『日刊スポーツ』)

 この記事には、杉浦の所属事務所社長の「許せないのは警察。1年2カ月もたってから、被疑者の調査をせずに突然の逮捕とは。日本は法治国家なのでしょうか」との訴えも載っている。

 結局、大阪地検は7月2日、処分保留のまま杉浦を釈放。続いて4日には、「恐喝容疑について『犯行は事実だが、示談が成立し、被害者の処罰感情も低い』として起訴猶予とし、傷害容疑については『別人による犯行だった』として嫌疑なしと判断」(7月4日付『アサヒ・コム』)、不起訴処分を発表するに至る。

 所属事務所は「傷害についてはもちろん、恐喝についても無実だと信じ、主張してきた。釈放されたものの、番組が中止になるなど、あまりに無念だ。警察の捜査に強い憤りを感じている」(7月2日付『アサヒ・コム』)と怒っているのだが、たしかに「起訴猶予」では無罪放免とはいささか色彩が異なるし、今のところ、テレビの打ち切り分が改めて放送されるかどうか、映画の出演シーンが残されるかどうか、どちらも未定の状態らしい。これから本格的に売り出そうとする若手にとっては今後を左右しかねないところだが、カフカの『審判』を地で行ったような今回の体験が思わぬ“芸のこやし”になるであろうか?
(2002.7.8)


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