2014.04.09

社員のミスで会社に損害!全責任を担当者に取らせたいが…

経営者家族の法律問題

トカゲのしっぽ切りはできない

「秘書がやった」は政治家の常套句ですが、わが身の保身と組織防衛のため担当者一人に不祥事の責任を押し付けたのではと、勘繰りたくなる事件は多々あります。STAP細胞の論文をめぐる問題もその一つです。新聞などの報道によると、理化学研究所では早々に主任研究者による論文の捏造や改ざんがあったと結論付けました。

確かに、画像の取違えや研究ノートの不備は、学者の世界では問題かもしれません。しかし、STAP細胞の存在の確認はまだ先というのですから、研究者一人に責任を負わせて事件の幕引きを図りたい裏事情でもあるんじゃないだろうかと、つい疑ってみたくなります。

もっとも、トップや上司が不祥事や仕事の失敗による損害の責任を担当者や部下に押し付けることは、民間企業では珍しいことではありません。上司の失敗を自分のミスにされたという経験は、サラリーマンなら一度や二度あるはずです。

しかし、誰のミスだろうと、会社には使用者責任があります(民法715条)。会社に過失はなくても、社員のミスで取引先など第三者に与えた損害は、会社に賠償義務があるのです。担当者のミスだからその社員個人に請求してくれという言い訳は、法律上許されません。ただし、会社が取引先に損害賠償を払った場合には、ミスした社員個人に相応の求償をすることはできます。

社員が仕事上のミスで会社や取引先に損害を与えた場合、その社員に就業規則等の制裁規定に則った相応の処分をすることは許されるでしょう。ただ、その社員一人に全責任を押し付けることは、絶対してはいけません。損害が生じたのは、会社や上司が社員や部下の監督責任を怠ったと見ることもできるからです。

処分は、そのミスが会社や上司の指示に従った結果起きたものか、それとも社員が独断で行ったのかなど、ミスの原因を調べた上で、その悪質さと損害の程度によって制裁内容を決めるといいでしょう。損害額の全部または一部を社員に弁償させる場合も同様です。「会社の被った損害はミスした社員が全額弁償する」という社内ルールのある会社もありますが、これは労働基準法16条で禁止された賠償予約に該当する恐れがあります。

思わぬ報復を受けることも

また、賠償義務をミスした社員一人に押し付けることは、公平な負担および信義則の面から考えても問題でしょう。結局のところ、仕事上のミスによる会社の損害を、社員個人に全額払わせるのは難しいと思います。

ところで、人気ドラマ『半沢直樹』の大和田常務のように、手柄は自分が独り占めにし、失敗は部下に押し付ける上司はどの会社にもいます。社員の処分を決める場合、社長さんは上司の報告を鵜呑みにせず、必ずミスした担当者本人からも直接聞き取りをして、その上で制裁内容を決めるべきでしょう。また、社長さんの家族や親族社員のミスなのに、その責任を一般社員に押し付けるようなマネも、絶対してはいけません。信賞必罰は衡平かつ厳格に行うべきです。

なお、会社や上司にミスの責任を押し付けられてクビになったり、降格や左遷など不当な処分を受けた社員は、労働基準監督署に救済を申し立てることができます。会社による恣意的で合理的理由のない解雇や降格は、労働基準法で許されていません。社員から申立てをされると、会社は行政指導などを受ける恐れがあります。また、社員は会社を相手取り、処分の取消しや損害賠償を求める裁判も起こせるのです。

この他、処分した社員から、ネット上に処分の違法性や会社の非道さを書き込まれることも覚悟しておいた方がいいでしょう。現に、各企業の噂話を書き込むサイトもあり、実名・匿名の社員の書き込みが花盛りです。その内容が事実ではなく単に会社や上司を誹謗中傷するようなものであれば、会社側も名誉棄損などで社員を訴えることはできるでしょう。しかし、書き込みを見た人の中にはそれが事実だと信じてしまう人もいて、会社のイメージダウンは避けられません。

会社や上司の体面や利益を守るためだけの露骨なしっぽ切りは、相手の社員からは法的な反撃だけでなく、ネット上への書き込みといった思わぬ報復を受けることもあります。また、他の社員のやる気も失わせますから、結果的に、会社の利益を損なうでしょう。このような悪弊を改めない社長さんや会社に、明るい未来はありません。

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