経営コラム

日本総研ニュースレター 2012年8月号

CSR活動の深化と「企業不祥事を科学する」意義

2012年08月01日 林寿和


低下が続く企業への信頼
 企業に対する社会の信頼が揺らいでいる。経済広報センターが毎年度実施している「生活者の“企業観”に関する調査報告」によれば、過去5年間のうち2010年を除くすべての年で、企業の信頼度に関する否定的な評価が肯定的な評価を上回っている。信頼できない理由として、「企業不祥事が後を絶たない」を挙げた人が最も多い。米エデルマン社が世界25カ国を対象に実施した調査においても、世界のビジネスに対する信頼度が、2012年に過去最低水準にまで低下したことを伝えている。
 多くの企業がCSR活動に力を入れる一方で、国内外で企業に対する信頼が低下している背景には、相次ぐ企業不祥事の影響があると見て間違いない。社会の信頼を回復するために企業が今取り組むべきことは、自社の企業不祥事を省みるのはもとより、他社の事例も徹底的に分析して、社会・環境に対する感度を高めることである。

企業不祥事分析により浮かび上がるリスク
 企業不祥事を分析する際には、単に法令違反事例に限定するのではなく、環境や社会も含めた企業を取り巻くステークホルダーに対して何らかの悪影響を与えた事案を広範にとらえることが重要である。
 昨今、企業のグローバル展開が加速しているが、進出先の文化・慣習などの違いが、思わぬ「不祥事」を引き起こしている。例えば、ある大手電気機器メーカーでは、男児出産が好まれるインドで販売した超音波診断装置が、女児堕胎を助長しているとして批判され、訴訟にまで発展した。
 日本と比べて国外では、自然保護や動物愛護を謳う環境NGOや、人権団体の活動が活発な地域も多い。ある日突然、レピュテーションを大きく毀損するような激しい批判にさらされ、その結果対応を迫られる事例も相次いでいる。例えば、ある食品メーカーでは、海外拠点における家畜の取り扱いが動物愛護団体による批判の対象となり、メディアにも報じられ、一部では不買運動が展開される事態も起きた。   
 サプライチェーンを構成する企業の不祥事にも注意が必要である。途上国に移転した海外生産拠点や下請け工場における劣悪な労働環境が人権団体から批判を浴び、問題が明るみになることで納入先企業から取引停止を迫られる事例や、労使間対立の激化が暴動にまで発展し、生産拠点が操業停止状態に陥る事例も多発している。
 企業を取り巻く環境が大きく変化している今日、他社の経験から学ぶべきことは多い。企業不祥事分析によって見えてくるリスクを、CSR担当部署が関連事業部署に対して注意喚起していくとともに、指針・規程類の継続的な見直しや、研修・啓発活動などを通じて、広く社内に展開していくことが重要である。

先入観を排した客観的な分析が鍵を握る
 自社の過去の不祥事を分析する際には、事業活動に直接的な影響をもたらした事故や違反事例に目が行きがちだが、一見すると取るに足らないような「軽微な事案」をより価値のある情報として取り扱うことが重要となる。大規模な事件・事故の背後には、些細な手順違反や軽微なトラブルが潜むことが多いからである。
 加えて、自身にとって都合の悪いことを無視したり、過小評価してしまう「認知バイアス」にも注意が必要となる。「軽微な事案」は、影響が小さく、かつ「よくあること」であるがゆえに慣れや安心感が生じ、その重大な意味を簡単に見落としてしまいがちである。例えば、メキシコ湾原油流出事故においても、事故以前から軽微な技術的トラブルが頻発していたが、現場管理者をはじめとする関係者は、警告としてとらえるべき兆候に注意を払っていなかったことが指摘されている。
 大規模な事件・事故を未然に防ぐには、こうした過去の事例を体系的に蓄積し、客観的に分析することが欠かせない。客観性を担保するために、社外の第三者の視点を取り入れるのも一つの有効な方法である。
 リスクが顕在化した後になってみれば、「起こるべくして起こった」と誰しもが思う事例はいくらでも存在する。先入観を排して自社の企業不祥事を向き合い、そこから積極的に学んでいくことが重要となる。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。