「ヌードはNG」の契約書

キャスティング会社は「粗キャス」という、ターゲットに合わせた大まかなタレント起用リスト作りをすることがある。それは広告代理店の制作部門「クリエイティブ」とタレントの相性があるからだ。

「若い人をターゲットとした商品、例えば日清食品のカップヌードルは、面白くて破天荒なCMを作りますよね。そうしたCMは、イメージを大切にするプロダクション、例えばジャニーズ事務所とは相性が悪い。ジャニーズのタレントは、定番の商品に投入すると、そこそこ売り上げを伸ばしてくれる。

ジャニーズは打ち合わせがとにかく細かい。ただ、やるべきことはきちんとやってくれるし、成果も出す。スマートな優等生という感じです。そもそも値段も安い。事務所の方針として、CMに頼らないというのがあるのでしょう。

例えば、SMAPは5人で1億数千万円。本来、1人5000万円でもおかしくない。5人ならば2億5000万円です。これでもだいぶ安く使える」

メディアのコントロールが巧みで、悪い報道が出にくいプロダクションほど、広告代理店としては使いやすい。

 

芸能プロダクションにとって、CMは数千万円単位の収入になるおいしい仕事だ。しかし前述したベッキーのケースのように、タレントが不祥事を起こした場合、巨額の損害賠償や違約金を抱え込む可能性もある。

どのような法的根拠から違約金が発生するのか。そこで筆者は、あるタレントとキャスティング会社が交わしたCM契約書を入手した。該当箇所には、こう書かれている。

〈 甲(キャスティング会社)、乙(プロダクション)は、相手方の品位・信用・企業イメージ・商品イメージ等を損なうような言動をしてはならず、乙は丙(タレント)に甲の品位・信用・企業イメージ・商品イメージ等を損なうような言動をさせてはならないものとする。

甲ならびに乙は、本契約に基づく丙の広告出演及び広告使用において、丙の培ったイメージを損なわないよう配慮する 〉

広告代理店関係者に尋ねたところ、これはCM契約書においてはごく一般的な規定だという。ただ、この〈品位・信用・企業イメージ・商品イメージ等を損なうような言動をさせてはならない〉という表現は曖昧で、いかようにも解釈できる。

「電通も博報堂も同じですが、契約を結んだということが大切。掛け捨ての保険のようなものです」

つまり事実上、プロダクションとの訴訟が起こることは想定していない。契約書は、いわば両者の合意を示す覚書に近い。

女性タレントの場合には、契約内容に〈ヌードにならないこと〉などの条項が付け加えられることもあるという。ある意味で、CMの契約内容がタレントたちの活動を縛っているともいえる。

「芸能プロダクションというのは、これからも存在し続ける。もし一つのプロダクションと喧嘩をしてしまうと、今後、そこに所属するタレントが使えなくなってしまう。そういうトラブルを広告代理店は避けたい。

万が一、広告代理店の営業担当部署が『プロダクションを訴えたい』と上に言っても、全体の利益を考えて、それを認めることはない。裁判になれば、契約の細かい内容まで明らかになる可能性がある。もし代理店側にも落ち度があれば、大きなダメージを受けることになりますから」

ただし、広告代理店がクライアントの顔色をうかがって、代金を自主的に返納するケースは珍しくない。

「広告代理店の体質はクライアント至上主義。頭が上がらないんです。話がつく前に『お金は返します』なんて言ってしまう営業もいる。クライアントが年間30億円ほど広告費を出しているとすると、取り引きしている広告代理店の収入は3億円から5億円程度。

この収入がなくなってしまうならば、例えば3000万円、5000万円程度の賠償金で済むなら払ってしまえばいいと考える」

ではその金を、広告代理店は芸能プロダクション、及びタレント側に請求するのだろうか。

「ベッキーのように、本人が払うという意思表示をしている場合は請求することもあります。ただ、過去に同じようなことがあったときは、タレントが『もうギャラは使い切ってしまった』というケースがあった。無い袖は振れないですから、その場合はどうしようもない」

広告代理店とキャスティング会社の双方にとって、人気のあるタレントは「キラー・コンテンツ」と言える。それを持っている芸能プロダクション、事務所とはなるべく事を構えたくない。要は「力関係」なのである。