学校不祥事の顛末-教諭がイスを投げて女子生徒がけが-(1)

4/22(土) 11:00配信

「故意でなかった」は通用しない 大切な感情のコントロール

【今月の事例】
 生徒を注意しようと教室で椅子を通路に投げ付け、女子生徒の右腕を打撲させたとして、A県教育委員会は、B町立C中学校の50代の男性教諭を戒告の懲戒処分にした。教諭は「大きな音を立て、本気で注意していることを伝えたかった」と話したという。県教委によると、教諭は社会の授業中、2年の生徒2人が私語をやめないため、生徒用の椅子を胸の高さから1メートル先の通路に向かって投げた。椅子は1人の机に当たって跳ね返り、背もたれが隣の女子生徒に当たったという。


1 暴行であって指導ではない
 本事例の教諭は、椅子を投げて生徒がけがをしたとき、どう思ったでしょうか。もし、謝罪したとしても、「わざとぶつけたわけではない」「おかしな弾み方をしたせいだ」「運が悪かった」といった言い訳を心の中でしていないでしょうか。

 たとえ「本気で注意していることを伝えたいと思っただけ」「生徒を狙って投げたのではない」としても、危険な行為によりけがを負わせているわけですから、責任を免れることはありません。この教諭の行為は教育的指導ではなく、単なる暴力行為です。


2 故意と過失
 本事例の教諭は、椅子をぶつけてけがをさせようという故意をもって、狙って打撲傷を負わせたわけではありません。

 しかし、授業中であり、近くに複数の生徒がいることが分かっていて、それなりの重量、大きさがある椅子を通路に向かって投げつけているため、椅子があらぬ方向へ弾んで、その結果、周囲の誰かに当たってけがをするといった因果の流れは、常識的に考えれば誰にでも分かることです。そのような場合には、狙って椅子を投げたわけでなくても、傷害の結果について法的責任を負うことになります。

 また、当たりどころが悪ければ、頭部外傷、顔面骨折、内臓損傷、失明など、重大な結果が生じた可能性も否定できません。まして、けがをした生徒の立場からすれば、他の生徒が騒いでいたことでなぜ自分がけがをしなければならないのか、全く納得がいかないことでしょう。「けがをさせるつもりはなかった」では済まされないのです。


3 指導の範囲か、指導の範囲外か
 児童生徒の身体に力を加える場合、指導の範囲内なのか、指導を超えた不適切な行為なのかを、常に判断していかなければなりません。以下、東京都が開示している「体罰関連行為のガイドライン」を抜粋しますので、一読してみてください。本事例の教諭の行為は、やむを得ずに行われたとは到底言えず、指導の範囲を超えていることが分かります。


□指導の範囲内
 注意喚起や指導を浸透させるためにやむを得ず行われた、児童・生徒の身体に、肉体的負担を与えない程度の極軽微な有形力の行使
【具体例】
腕をつかんで連れて行く/頭(顔・肩)を押さえる/体をつかんで軽く揺する/短時間正座させて説諭する/寝ている生徒の肩をたたき起こす

□不適切な指導
 児童・生徒の身体に肉体的負担を与える程度の軽微な有形力の行使
【具体例】
手をはたく(しっぺ)/おでこを弾く(デコピン)/尻を軽くたたく/小突く/拳骨で押す/胸倉をつかんで説教する/襟首をつかんで連れ出す


4 感情のコントロール
 「思わずかっとなって手が出てしまった。」そう言う教員をどう思いますでしょうか。怒りは誰にでもある感情です。怒りの感情を知り、それをコントロールすることは、教員でなくとも社会人として求められる素養と言えるでしょう。

 教育現場でも「アンガーマネジメント」という言葉がよく聞かれるようになりました。怒りの感情がどういったマイナスを引き起こすか、そもそも怒りとは何か、自分が怒りを感じるのはどのような場面かなどを想像した上で、怒りの感情が芽生えたらどう対処するかを考え、自分なりにコントロールする方法を考えておく必要があると思います。

 怒りをコントロールできない教員が生徒指導に当たれば、何らかの問題が発生することは目に見えています。現場に立つ前に、自分の感情のコントロールについて、ぜひ時間をとって考えてみてください。

※「教員養成セミナー2017年5月号」より

弁護士 樋口 千鶴
(上條・鶴巻法律事務所/東京都教育委員会公益通報弁護士窓口)