マクドナルドの期限切れ鶏肉事件――巨大組織の不祥事はどのようにして起こるのか

社会

マクドナルドの期限切れ鶏肉事件――巨大組織の不祥事はどのようにして起こるのか

 中国の工場で期限切れの鶏肉が使用されていたことが発覚したマクドナルド。2014年7月のことであり、2年が経過するわけだが、ニュースであの映像を見た時の衝撃は今も忘れられない。それ以降、急激に客足が遠のき、業績不振に陥っているというニュースが度々報道された。しかし、長年にわたり世界規模のチェーンとして成功をおさめてきたマクドナルドが、なぜこのような事態に陥ってしまったのだろうか?

失敗の研究 巨大組織が崩れるとき』(金田信一郎/日本経済新聞出版社)では、記者としての経験を持つ著者が、マクドナルドをはじめとする巨大組織の不正のメカニズムを、6個の要因から分析している。その要因とは、以下のとおりだ。

失敗の要因(1) 肥満化
失敗の要因(2) 迷宮化
失敗の要因(3) 官僚化
失敗の要因(4) ムラ化
失敗の要因(5) 独善化
失敗の要因(6) 恐竜化

サテライト店舗による肥満化

 6つの要因の中で、マクドナルドのケースに該当するのが「肥満化」。著者によれば、マクドナルドは、1990年に776だった店舗数を、10年間で3598まで急増させているとのことだ。この背景にあるのが、「サテライト店舗」と呼ばれる小型店。通常の店舗とは異なり、店長を配置せず、調理設備も最小限に抑えることで、スーパーや学校の付近などに短期間で大量出店することが可能だ。しかし、規模が拡大するほど、本来のターゲットであった子どもや母親からかけ離れた店作りになってしまう。売上高を伸ばすために、子ども連れが利用しやすい店舗や商品よりも、低価格の商品を大量に売ることを重視するようになったのだ。さらに、拡大に伴い問題も増え、これに21世紀の業績悪化が加わり、赤字に転落してしまった。

 本書では、このサテライト店舗による拡大こそが、失敗の要因だと分析。これがなければ、90年代から無理のない出店カーブを描いていたのでは、と指摘している。

経営トップと現場の乖離による独善化

 もうひとつ、マクドナルドに該当する要因がある。それは、「独善化」。現場の状況を把握せずに、経営トップが一方的な指示を出し、暴走してしまうケースだ。この要因は、期限切れの鶏肉を使用していた事件発覚の翌月に起こった、過剰請求(「マックウィング」と「豆腐しんじょナゲット」を通常の半額程度に値下げしたが、8割以上の店舗で間違った金額で請求していた)に大きく影響している。

 まず、顧客から敬遠されていた“チキン”と“ナゲット”を本社がキャンペーン商品に設定。この時点で、現場からは非難の声が挙がったそうだ。さらに、価格の決定が直前となり、本社が管理するレジの修正が遅れた。そこで、本社から全店舗に対して、金額の指示が伝達されたが、即座に全てのクルーが対応するのは不可能であり、結果として8割以上の店舗で過剰請求が起こってしまったのだ。

 この時、現場には顧客からの苦情が絶えない状況であったにもかかわらず、経営トップは謝罪会見を開かず、決算発表の場で謝罪の言葉を読み上げたのみであった。さらに、「憤りを感じる」と被害者のように語ったため、その発言と態度に現場の店舗関係者は不信感を抱いたという。

 組織が巨大化すれば、経営陣と現場の距離が広がる可能性は高い。しかし、本来であれば業績を伸ばすためには現場の状況を把握することが必須だ。特に、顧客サービスという点では、現場の声こそ貴重な財産であるはず。たとえそれが経営側の決定を否定するものであっても、真摯に向き合わなければならない。著者によるマクドナルドのケースの解説を読んでいて、それを改めて痛感した。さらに、大企業が不祥事を起こせば、その影響は計り知れず、決して他人事ではない。経営陣はもちろんのこと、私たち一人ひとりが、この問題に真剣に向き合うことが大切なのではないだろうか。

 本書では、他にも理研(理化学研究所)やベネッセ、三井不動産などの巨大組織が起こした不祥事を詳細に分析している。企業に対する監視の目を強めるという意味でも、幅広い方に手にとっていただきたい1冊だ。

文=松澤友子