あの事件の危機管理広報の誤りは、一体どこにあったのか。コンプライアンス、メディア、危機広報の専門家がそれぞれの視点で語る企業の運命を決めた、広報対応の“分岐点”とは─?

(左から)江良俊郎氏(危機管理広報専門家)、郷原信郎氏(コンプライアンス専門家)×山田厚史氏(元朝日新聞編集委員)

初期対応を誤ったみずほ

江良 郷原さん、2014年もたくさんの企業不祥事がありましたね。

郷原 そうですね。ただ、2014年の企業不祥事は、2013年に比べれば、長期間マスコミから責められる事例は少なかったように思います。2013年には、カネボウの白斑問題、みずほ銀行の不正融資事件、阪急阪神ホテルズのメニューの不適正表示問題は徹底的にマスコミから追及されていました。

カネボウは、当初の緩慢な対応から急に方針転換して全面的に謝罪する対応をとった。そのギャップの大きさが厳しい社会的批判につながった。一方、みずほ銀行は、ちょうどTBS系列のドラマ『半沢直樹』が空前の高視聴率を記録して終了した1週間後に金融庁の業務改善命令が出たことが、想像を超える社会の反応につながった。あらゆる企業の不祥事対応に共通しますが、危機対応のダイナミズムを考えないと適切な対応はできません。大したことない問題だと思っても大問題になりうる兆候が現れている時に、どれだけ有事と認識し、しっかりした対応ができるのかがポイントです。

山田 確かにみずほの不祥事対応には、企業が学ぶべき不祥事の典型的な誤りがあります。金額から見ても社会的にそれほど大きな問題ではないと思うんです。それを、みずほ銀行がヘンテコに隠すものだから、どんどん問題を増殖させてしまった。あれは明らかに初期対応の誤りです。

一番の誤りが「黙っていれば逃げられる」と甘く見たこと。広報は、通常は企業と社会との間に入り、具体的にはメディアに対応しますが、みずほの広報が見ていたのは社内の上層部だった。上層部を守ろうとして逆に傷を負わせる結果になってしまいました。

江良 みずほのケースでは、最初の情報の出し方に失敗してしまい、マスコミが騒いでさらに話が大きくなった。大事なことはやはりメディア対応にあるということですね。メディアが大きく報道すれば、警察や検察も大きく動かざるを得ない。

郷原 業務改善命令で指摘されたことが金融機関にとってどういう問題なのかを正しく世の中に理解してもらうことが重要でした。ところがみずほ銀行側はまともに説明しないままメディアの報道が先行してしまった。

山田 組員融資みたいな話があったから、メディアは飛びつきますよね。そこを記者会見できっちり説明すべきなんです。みずほの事例では、記者会見を開かず、リリースをクラブに持ってきた部長に、立ち話で説明を聞く形になった。広報も「これは頭取と金融庁の間で話がついてるから大丈夫だろう」とタカをくくってきちんと調べずに対応した。そこが対応の誤りでしたね。

江良 企業の立場からいえば、「記者会見をしても結局、記者は分かってくれない。余計な説明はしないほうがいい」という判断をする経営者が出てくる。

山田 メディアとしては、「記者会見を開かなかった」というのが決定的なんですよ。そうすると記者は表に出しにくい不都合なことが内部にある、と見て独自の取材を始めます。

ベネッセはなぜ批判されたのか

2014年7月2日、原田氏は初めてベネッセの社長としてマスコミの前に立ち、経営方針について説明。この時点ですでに情報漏えいが発覚していたにもかかわらず、会見が開かれたのはその1週間後の9日だった。

江良 2014年の話に移りますが、最近の企業の危機事例といえばベネッセの情報流出がまず挙げられます。社内で最初に ...

あと84%

この記事は有料会員限定です。購読お申込みで続きをお読みいただけます。