事務所報79号

親会社役員の法的責任

[ 弁護士 斉 藤 芳 朗 ]
  1. 最近,食品偽装やら暴力団関係者に対する融資やらと企業不祥事に関する新聞記事が目にとまります。不祥事を発生させている企業は上場会社の子会社(孫会社,曾孫会社…)が多いように見受けられます。このように子会社で不祥事が発生した場合に,親会社の役員(取締役・監査役)が記者会見して謝罪する・謝罪広告を出すといった「道義的・社会的」責任ではなく,「法的」責任を問われるのかについて考えてみたいと思います。
  2. 第一に,子会社の経営は子会社の取締役の権限と責任において行われ,取締役の職務執行を監査するのは子会社の監査役ですので,子会社のガバナンスが機能せずに不祥事が発生した場合に,「法的」責任を問われるのは子会社の経営者,というのが原則となります。
  3. 第二に,とはいっても,親会社には企業集団における業務の適正を確保するための体制を整備する義務が課されており(会社法362条4項6号,会社法施行規則100条1項5号),子会社のガバナンスは子会社任せというわけにはゆきません。そうすると,まずは,親会社において子会社のガバナンスを徹底させる体制が取られていたかどうかが問題となります。子会社におけるガバナンス体制を構築せず,あるいは構築したが機能していないような事実があれば,親会社の役員の「法的」責任が問われる場合があるでしょう【営業部で発生した架空売上について,営業部内において営業担当者と注文書確認担当者を分離し,監査法人から残高確認をするといった体制を整えていたこと等を理由として,代表者の責任を否定した日本システム技術事件(最判H21.7.9)が参考になります】。
  4. 第三に,では,ガバナンス体制を構築・機能させておけば,親会社役員が「法的」責任を問われることは一切ないのかが問題となります。まず,子会社から親会社のコンプライアンス窓口に対して,不祥事の通報がなされていたがこれを放置していたような場合には,親会社の役員の「法的」責任が問題となるでしょう【アメリカの孫会社において発生した不祥事について親会社役員の法的責任を否定した野村証券事件(東京地判H13.1.25)では,親会社の役員の法的責任を否定しつつも,「特段の事情」がある場合は別としており,上記のように,通報があっているのに放置したような場合は「特別の事情」に該当する場合があると思われます】。
    つぎに,ほんのわずかの注意を払えば子会社に不祥事が発生している事実を知り得たような場合も,親会社の役員の「法的」責任が問題となるでしょう【支店に往査に行った監査役がもう少し調査しておけば支店の管理体制が十分でないことを知り得たとして,監査役の法的責任を認めた大和銀行事件(大阪地判H12.9.20)が参考になります】。このように,子会社で発生している不祥事に気付くだけの現実的機会があったのに,これに気付かなかったような場合,親会社の役員の「法的」責任が認められるおそれがあります。
  5. 第四に,子会社における不祥事について,親会社の役員の義務違反だけではなく,子会社の役員の義務違反,不買運動といった消費者の対応等の種々の要因が重なって損害が発生した場合にも,親会社の役員の「法的」責任が認められるのかが問題となります。
    これについては,親会社の役員の落ち度に応じた責任が認められる場合があります【役員の義務違反と損害の発生との間に強い因果関係がなくても,会社に発生した損害の2%,5%の範囲で役員の責任を認めたダスキン事件(大阪高判H18.8.9)が参考になります】。
  6. 今一度,子会社に対するガバナンス体制が十分に機能しているか,子会社での不祥事発生を疑う具体的な事実がないのか,確認されたらどうでしょうか。