投稿日:2016/4/9

何故続く?スポーツ界の不祥事


為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)

アスリートの不祥事が起こるたびに、メディアでなぜそんなことが起こるのかという意見が出るけれど、実際の所スポーツをやったから極端に善人になるわけでもないので、世間一般の確率と同じぐらいでは不祥事が起きてしまうのだと思う。

ただ、スポーツ選手が少し認識不足なのは、公人として扱われているので、普通であればスルーされるような出来事も(今回の賭博はスルーされないだろうが)スポーツの場合は表に出るということだろうか。

スポーツ界の内部の空気を言えば、エリートの選手たちは戦うために育てられていく。世の中が見たいのは選手が勝つ姿であり、ひたむきに頑張る姿であるわけだから、それにひたすらに没頭せよという空気が出来上がる。

協会に入るお金も基本は強化費として入り、強化費というぐらいだから選手強化のために使われる。良いコーチを招聘し、選手を海外で転戦させ、経験を積ませる。特に昨今はエリート教育を始めたから中学生の段階でこの意識が高まっていく。

この空気は選手だけではなく、指導者、そして協会の人間も共有しているということだ。そもそも、スポーツ界の組織では関係者が、元選手であり、引退後もずっとその世界で生きている人が多数で形成されていることが多い。勝った負けたが私たちの存在価値になる。

世間を見渡すと、教育というのはもう少し広く行われる。無駄な経験を積みながら、友達とわいわいやりながら、プロジェクトを進めながら、だんだんと大人になっていく。ところがエリート選手はこのプロセスを通過しない。ひたすらに勝負の世界一点を生きていく。そうなるとどこか極端に大人びているのだけれど、どこか極端に子供っぽいところがある人格になっていく。

視野を極端に狭めて目標を絞り込みそこに向けて一直線に向かう日々を10数年過ごすのだから当たり前かもしれないが。私はそれをうまく使えばとても優秀な人材になれると信じているが、一方危うさもあるのだとも感じる。

どなたかが教えてくれた言葉だったが、こんなものがあった。

”私たちは人間を兵士にする方法は手に入れたが、未だ兵士を人間にする方法はわかっていない”

選手を強くしていく方法はこれからも洗練され、ますます加速していくだろう。一方で戦うために特化された人を、社会に適応させるための方法はどうしていくのだろうか。

(為末大氏 HPより)


 


この記事を書いた人
為末大スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役

1978年5月3日、広島県生まれ。『侍ハードラー』の異名で知られ、未だに破られていない男子400mハードルの日本 記録保持者2005年ヘルシンキ世界選手権で初めて日本人が世界大会トラック種目 で2度メダルを獲得するという快挙を達成。オリンピックはシドニー、アテネ、北京の3 大会に出場。2010年、アスリートの社会的自立を支援する「一般社団法人アスリート・ソサエティ」 を設立。現在、代表理事を務めている。さらに、2011年、地元広島で自身のランニン グクラブ「CHASKI(チャスキ)」を立ち上げ、子どもたちに運動と学習能力をアップす る陸上教室も開催している。また、東日本大震災発生直後、自身の公式サイトを通じ て「TEAM JAPAN」を立ち上げ、競技の枠を超えた多くのアスリートに参加を呼びか けるなど、幅広く活動している。 今後は「スポーツを通じて社会に貢献したい」と次なる目標に向かってスタートを切る。

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