平成27年は東洋ゴム、東芝、旭化成建材、フォルクスワーゲン等、企業不祥事が目立つ一年となった。

 第三者委員会報告書格付け委員会の委員長であり、コーポレート・ガバナンスのあるべき姿を提唱し続ける久保利英明(くぼり・ひであき)弁護士に、2015年の企業不祥事の総括と、弁護士、企業法務部が果たすべき役割について聞いた。

昨年の企業不祥事を振り返る

昨年は企業不祥事が目立つ一年となりました。

 昨年が特に多かったわけではなく、企業の不祥事自体は以前から同じくらい存在していた。ただし、最近は内部通報が企業側、役所側共に機能するようになって発覚しやすくなっているため、不祥事案件が増えているように見えるのではないか。
 例えば、東洋ゴムの、防振ゴムの不正事案について、社内でコンプライアンス研修を行った後に内部通報があり発覚したものだった。このあたり、企業側にとっても、「内部通報を揉み消すわけにはいかない」という姿勢が見られる。
 バブル崩壊、リーマンショックから年月が経過し、埋没していた不祥事をいつまでも隠蔽することは難しく、結果的に透明性が高くなっていると言える。こうした傾向はプラスに評価すべきだし、社会全体としてはいい方向に向かっているといってよい。

ガバナンスなくしてコンプライアンスなし

ガバナンスとコンプライアンス

昨年に発生した不祥事の特徴、共通点、異なる点などはありますか。

 不祥事案件の類型を大きく分けると、「ガバナンス」の問題と「コンプライアンス」の問題に分ける事ができると考えている。

 上の逆三角形が「ガバナンス」を、下の正三角形が「コンプライアンス」を示している。
 ガバナンスに問題を抱える企業は、上の三角形に問題を抱えている。つまり株主・社外からの要請に対して、役員などの経営陣が答えられていない状況である。

 「ガバナンス」を「企業統治」ととらえると、「それは社長がやる事だよね」と誤解をしてしまうが、 社長などの経営陣は、ガバナンスの「主体」ではなく、「客体」 なのである。社長は、株主や社外取締役など社外からの圧力としてのガバナンスによる統治を受ける立場にある。

 一方で、「コンプライアンス」は下の三角形であり、リスクマネジメントの問題。 ガバナンスによるコントロールを受けた社長が主体となって、役員や社員をどうマネジメントするか という事。

東芝の事案とマンション杭打ちの事案の違い

 昨年話題になった東芝の事案は、ガバナンスに問題を抱えているケース。上の逆三角形が崩れている状況であり、株主からの要請に対して経営陣が答えられていない状況に陥っていた。トップである社長が、取締役会や社外取締役と情報を共有することなく、社長単独で月例報告会で利益を出すようプレッシャーをかけていたという事を踏まえると、社長に対する外部のガバナンスが効いていないことがわかる。

 一方、マンションの杭打ち事件のケースは、平成25年に発覚したバナメイエビを芝エビとして提供した「食品偽装問題」や「消えた年金問題」と構造的に同じであり、コンプライアンスの問題と言える。決して褒められた事ではないが、コストを下げて結果を出そうとする現場の工夫や生活の知恵と言い換える事ができるものもある。重要なのは、このような現場の状況を、どのように経営陣が把握し、リスクマネジメントするかということ。

 ガバナンスがしっかり機能していれば、社長がコンプライアンスを徹底することも可能であるが、ガバナンスが効いていないと問題はより根深いといえるだろう。一言で言えば、「 ガバナンスなくしてコンプライアンスなし 」という事だ。

機能しない第三者委員会

東芝の第三者委員会調査報告書に厳しい評価をされていますね。

 今までにも評価に値しない調査報告書はあったが、東芝の調査報告書は他と比べても劣る。第三者委員会にとって重要なのは会社からの独立性である。それなのに、何を調査するかという調査の範囲の設定(スコープ)という最初の一歩目から、会社から言われた範囲に調査を限定しており、その意味で独立性をもった適切な第三者委員会とは到底言えない。

 初めから歴代3社長に責任を負わせ、幕引きをするストーリーができていたと言わざるを得ない。調査委員についても、そうした予定調和の中で選ばれた人選なのではないかと疑われてしまう面をもっている。

東芝の第三者委員会報告書の主な問題点

  • 第三者委員会として該当しない
    調査範囲が東芝の指摘した委嘱事項に限られており、独立性を有していない
  • 事実の調査が不十分
    調査範囲が限定された事により、ウェスティングハウスと監査法人の問題が、調査の対象から外れている
    不正会計の責任が歴代3社長に限定され、元会長の現社長に関する記述がほとんどない
    歴代3社長が不正経理に及んだ動機の解明もされていない
  • 第三者委員の独立性、中立性に疑問
    第三者委員会の委員に、グループ会社との顧問契約を第三者委員会発足の直前まで締結していた弁護士がいる
    公認会計士の一人が東芝と取引関係のあった監査法人に 2014 年まで在籍していた
    平成25年11月25日 第三者委員会報告書格付け委員会 個別評価より

問題がある第三者委員会調査の特徴を教えてください。

 利害関係者が第三者委員に絡んだ場合や、調査範囲の設定がねじ曲げられている場合は厳しい評価につながる。われわれ第三者委員会調査報告書格付け委員会は、過去にも、リソー教育や朝日新聞の報告書に対して厳しい評価を下したことがある。

 リソー教育の報告書は、調査範囲の設定が不適切だった例と言える。第三者委員が社長をかばい、社長は悪くないという前提で調査範囲が設定され、調査・報告がされていた。社長自身が粉飾や違法行為を知らなかったとしても、社長である以上、その情報を把握するための仕組みである内部統制システムを構築できなかった責任はある。企業不祥事においては、「責任は社長が取り、膿を出しきる」という姿勢がなければならない。

責任にも色々な種類がありますが、ここで言う責任とはあくまで外形的なものなのかと思いますがいかがでしょうか。

 法人の責任は人が取るしかない。会社の崩壊を防ぐため、いざという時には責任者であるトップが辞任する。それが真っ当な会社だろう。
 第三者委員会によって膿を出しきれば、株価はすぐに反応する。厳しい指摘をしたとしても、「悪材料が出尽くした」と市場が判断すれば株価はすぐに戻る。その意味でも、第三者委員会が果たす役割は非常に大きい。

平成28年3月現在

第三者委員の調査を機能させるために

では、第三者委員会による調査を成立させるにはどうしたらよいのでしょうか。

 第三者委員会の役割は3つある。① 事実を洗い出し 、② 真因を探り 、③ 再発防止の提言をする 事だ。

事実の洗い出し

 第三者委員会は、事実調査委員会でもある。 
 まず事実を調べなければならない。では、「その事実とは何だ?」という事になるが、会社やメディアが言うことを鵜呑みにするのではなく、「どんなことがなぜ起きたのか」ということに関し白紙の状態から調査に入らなければ事実は調べることはできない。

 検察OBの中には、「第三者委員会には権限がないので、自白させる事ができないから事実を洗い出すことは難しい」と言う人もいるが、自白を求めても吐かない人は吐かない。
 今は、自白よりも、メールを根気よく調べていけば事実は自ずと見つかることが多い。ただし、これには会社の協力が不可欠だ。時間もかかるし、労力も要するが、会社に「第三者委員会を信頼し、協働作業により膿を出しきる」という気持ちがなければ実現は難しい。

 だから、第三者委員となったとしても、事実の洗い出しに非協力的な会社に対しては、委員を外れるという姿勢も必要だ。実際に有能な委員が辞任する事態が発生すれば、会社にとって問題となる。その際に記者会見でもやれば、外部からは「一体どんな事実が隠されているのだろう」という目で見られ、より深刻な事態になるだろう。だから会社は協力するはずだ。

真因を探る

 事実の洗い出しが出来れば真因を探る事になるが、真因を探れていない一例として、再度リソー教育のケースを上げたい。

 リソー教育ではグループ全体で10年間にわたり、売上が不正計上されており、平成26年に第三者委員会の報告書が公開されたが、「直接粉飾に手を染めていない」「大株主でもあるのだから粉飾したら損をする」という理由で創業者でもある会長の責任には触れていなかった。

 報告書では、従業員に対するきついノルマが課せられた結果、虚偽の報告をして粉飾となったと書かれていたが、なぜ虚偽の情報を上げなければならなかったのかを究明しなければ真因にたどりつけない。そこには利益至上主義に基づき信賞必罰となっていた厳しい人事制度があり、その人事制度を敷いたのは創業社長である会長だった。となれば、会長に根本的な原因があるのは当然。その真因に触れずに、表面的な指摘のみにとどまっていては第三者委員会ではない。

再発防止(提言)

真因を探れていない、表層的な原因しか出せていなければ、そこに対する防止策となってしまうので、また同じ事を繰り返してしまうという事になりますね。

 その通り。
 真の原因を究明しなければ再発防止策はつくれない。第三者委員会が「事実は何か」という事を考え、仮説を組み立てて深掘りしていくことで問題の根本が見え、初めて真因を探ることができる。その上で再発防止策を考えていく必要がある。

 東芝の調査報告書にも再発防止策が書かれてはいるが、そもそも不祥事の真因を探れていないので、一般論に終始している。「企業体質」が問題というだけでは第三者委員会の報告書とは言えない。

「雨が降る日は天気が悪い」という記事を書いてはいけない

 元日経の塩谷喜雄氏は、新聞記者時代に先輩から「『雨が降る日は天気が悪い』という記事を書いてはいけない」と言われたそうだ。これは、同じ事を二度言っているだけであり、本当の原因を探らなければ記事にならないということだ。

 第三者委員会の報告書も同じであり、東芝の報告書は、「雨かあられか雪かはわからないけど、何か降ってきたから天気が悪い」と言っているようなものだ。

弁護士、法務担当は会社の品格を担え

3つのYとは

企業不祥事が発生した時、不祥事を防止するために弁護士、法務担当に求められる事は。

 これは、「いい弁護士とは何か」ということについて話すときいつもいっているのだが、「柔らかい頭」「優しい心」「勇気」という「3つのY」がなければいけない。

 要件事実でガチガチになったり、教わった判例だけで判断したりするのではなく、判例の射程はどこなのか、本件事案に当てはまるのか、どこが違うのか柔軟に考えて判例の適用を判断できなければならない。

 いろいろ見ていると、頭の固い人が顧問弁護士にいると、第三者委員会の調査はやりにくい。「不祥事を隠そう」「小さく見せよう」といったような戦略で来られると第三者委員会としては困る。
 「今までの調査を見ると厳しい評価をしてもらった方が早く再生しているので私が社長を説得するから、真相をどんどん調べて欲しい」といえる人物が顧問弁護士にも、法務部長にでもいれば随分変わる。

 今はもう嘘を隠し通すことができない世の中になっているのだから、不祥事を隠そう、小さく見せようという姿勢では、結局顧問弁護士と法務部長が結託していたと言われ、第二・第三の矢が飛んでくるかもしれない。

 東芝でも、仮に新任の社外取締役が新たな第三者委員会を作ろうと言っていれば、もっといろいろな事実が出てきて、違った結果になったかもしれない。

昨年はコーポレートガバナンス・コードも話題となりましたが、委員会等設置会社に移行しても根本的な解決にはつながらないのでしょうか。

 指名委員会等設置会社であるというだけでしっかりした会社とは言えない。大事なのは表面の外装ではなく、本当に杭が岩盤に刺さっていれば強くなるだろう。例えば、外国人や、女性役員を入れ、問題があればすぐに社長が解任させられるような体制になっていれば強い。

 結局は人の問題に帰着する。良い社外取締役を引っ張って来られるかにかかっている。社長のお友達だから、という理由ではなく、嵐の日に船を出す時に一緒に船出ができるような頼り甲斐のある友人を社外取締役に迎える必要がある。そういった人物であれば、適切な進言もなされるだろう。

リーガル・パーソンとしての矜持を

 だからこそ、弁護士や法務部長のようなリーガル・パーソンは矜持を持って言うべき事を言って欲しい。株主は、企業を信頼して投資している。特に法務や会計ではインチキをしないだろうと信じている。そういった信頼を担う財務部長、法務部長は、「インチキをしたら会社の品格が疑われる」ということをよくよく噛みしめて業務に取り組まなければいけないポジションなのだ。

  • facebook
  • Twitter