労働者が不祥事を起こした時に始末書をきちんと提出させない会社が見うけられます。私は関与先の会社には必ず始末書をとるようにお願いしています。労働者始末書を書かせることは法的にみて非常に重要な意味があるのです。


始末書を提出させる目的とは何でしょうか。もちろん本人の反省を促してけじめをつけることにより再発を防止するという目的はあるでしょう。しかしそれだけではありません。

最も重要な目的は、労働者が不祥事を起こしたことについて、本人直筆の書面の証拠を確保するということです。つまり、今後この労働者解雇せざるを得なくなった場面において、労働契約法第16条・解雇権濫用法理を充足させるべく、過去の労働者の非違行為の事実、および会社が指導を行ったという記録を残すことになるわけです。これにより、会社は再三注意・指導を行ったにもかかわらず、残念ながら改善がみられなかったということが言えるわけです。さらに労働者の弁明が書かれていれば、弁明の機会を与えたという証明にもつながります。性悪説で従業員の将来を疑うようなことはしたくないかもしれませんが、リスク管理の為には非常に大事なことです。



この目的を踏まえた場合、始末書の中身というのが重要になってきます。

一般的に始末書といえば、事の顛末を記載し、本人の謝罪の意や「今後二度としません」という誓約的な文が書かれるものです。この後半の謝罪や誓約が重要だと通常は考えるでしょう。しかし、法的な意味で言えば、大切なのは前半の不祥事の顛末の部分です。

極論をいえば、謝罪や誓約の部分はなくても構いません。紛争となった際にはむしろ本人の反省がみられないとみなされ本人が不利になる可能性も考えられます。

それよりも注意すべきことは、本人の自由意思によらずに会社が強制的に謝罪文を書かせてはならないということです。その意味でいうと、始末書の提出命令に従わない労働者に対して懲戒処分を科すことにも問題があるといえます。憲法第19条が保証する思想・良心の自由に反すると解されるからです。


もしも労働者始末書の提出に従わなかったり拒否をする場合には、不祥事の事実のみについて記載するよう改めて命じ、これに従わない場合には懲戒処分も有りだと思います。

仮に労働者の提出してきた始末書の顛末の記載が事実と異なる場合には、書き直しを命じることも必要です。書き直しをさせた後、全てのバージョンの始末書を保管しておくと完璧です。



最後に1点注意ですが、始末書というものは通常、懲戒の「けん責」および他の処分において規定されるものであり、重大な不祥事の際に提出を義務付けるものです。

ですからさほど重大とはいえない軽微な問題行動についてまでいちいち始末書を提出させるわけにはいきませんが、解雇権濫用を否定する為には細かい記録の積み重ねが重要になりますから、注意書というような形式を使ったり、指導記録をつけていくことで対応していくのがよいと思います。