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昨年、東京大学、千葉大学、慶應義塾大学の学生による集団強姦事件が相次いで発覚し、世間に大きな衝撃を与えた。公判で東京大学の加害者学生が「偏差値が低いため、性的な対象としか見ることができなかった」という主旨の発言をしたこともクローズアップされ、その認識の特異性が浮き彫りとなった。有名大学の学生による集団強姦事件が多発する背景には何があるのか。被害を防ぐために、どのような対策をとるべきなのか。専門家に話を伺った。(取材・文/岡本実希、編集協力/プレスラボ)

昨年立て続けに発覚した有名大学による集団強姦事件

 昨年、有名大学の学生による集団強姦事件が立て続けに発覚し、大きなニュースとなった。多くのメディアが事件を取り上げたが、加害者の学歴や恵まれた家庭環境にのみ焦点を当てた報道も多かったことは否めない。こういった報道が読者の好奇心を煽ることは確かだが、果たして再発防止につながるのだろうか。

 加害者たちはなぜ集団強姦事件を起こしたのか。有名大学出身であるということと事件の間に関連性はあるのか。本稿では、性加害者への治療や研究を行う福井裕輝氏、斉藤章佳氏のお二人に専門家の観点から事件について聞いた。

 まず、昨年起きた有名大学学生による集団強姦事件だが、下記のようなものがある。

 ◎東京大学・集団強姦事件 2016年5月、大学生同士の交流を図るという名目のサークルに所属する東大生らが、東京都内のマンションで女性に性的暴行を行い、集団強姦罪に問われている事件。アルコールで意識が朦朧としている女性に対して、陰部にドライヤーをあてたり、カップラーメンをかけたりするなどの行為もあったとされる。逮捕された5人の学生のうち、3人が退学、2人が停学になったと報じられている。

 ◎千葉大学医学部・集団強姦事件 2016年9月、千葉大学の医学部生、研修医らが、実習の打ち上げで泥酔した女子学生をトイレに連れ込み、集団で性的暴行におよんだとされる事件。その後、酒に酔った彼女を送るという名目で加害者宅に連れ込み再度暴行を行った。指導医1人と学生3人が逮捕されたが、全員が不起訴処分。警察は不起訴の理由を明らかにしていない。

 ◎慶應義塾大学・集団強姦事件 2016年9月、慶應義塾大学の広告学研究会の学生らが女子学生に酒を強要。性的暴行を加えただけでなく、その様子をスマートフォンで撮影するなどした事件。慶大は3人を無期停学処分、1人を譴責処分。

「皆がやっているから大丈夫」集団強姦に見られる特有の心理とは

 なぜ集団強姦事件は起こってしまうのか――。その疑問を解く前に、集団強姦が他の性犯罪に比べどのような特徴を持つのかについて見ておきたい。平成27年度の犯罪白書に目を通すと、集団強姦は(1)再犯率が低い、(2)加害者の年齢層が低い、という特徴が見られることが分かる。

 以下は、平成27年度犯罪白書の性犯罪者類型別再犯率のグラフである。これを見ると、他の類型では再犯率が高くなっているのに対して、集団強姦犯の再犯率はほぼ0%と、かなり低くなっている。

 なぜこのような特徴が現れるのか。斉藤氏によれば、集団強姦とその他の性犯罪では犯罪に至るまでのプロセスに大きな違いがあるからだという。

斉藤 「痴漢や盗撮の単独犯の場合は、ストレスへの対処行動やスリルや達成感を味わうために性的逸脱行動を反復しているうちに、徐々にその報酬の回路を脳が学習し、やめられなくなっていく――。

 いわゆる『依存症』の状態になっていることがあります。このため繰り返している場合、比較的再犯率も高くなる傾向にあります。一方で、集団強姦の場合は、嗜癖的傾向が原因というよりは『周囲がやっているならば自分も大丈夫だろう』『自分もやらないと仲間から外される』という同調圧力にも似た集団心理がきっかけで罪を犯すケースが多いと考えられます。

 千葉大学の集団強姦事件で罪に問われている学生らが『周囲の雰囲気に流されて自分もいいだろうと思った』などと供述していることが典型的だと言えるでしょう」

「みんながやっている」という安心感から極端な行動に走りやすくなる上記のような心理は、社会心理学で「リスキーシフト」と呼ばれ、集団犯罪が起こりやすくなる原因だと考えられている。

 また、福井氏は「同じことをやらなければ、コミュニティから排除されるのではないか」といういじめに似た心理も発生している可能性があると分析する。

福井 「参加しないことで、仲間内でのポジションが脅かされることを恐れて行為に及んだ人もいるのではないでしょうか。また、先輩後輩という上下関係のなかで断り切れずに行為におよんだというケースもあると考えられます」

 しかし、たとえ加害者同士で「いじめに似た心理が発生していた」とはいえ、より弱い存在である人に加害を加えることが許されるわけではもちろんない。

偏差値が低い女性は性的対象でしかない加害者の歪んだ認識とは

 再犯率の低さに加え、集団強姦の特徴として挙げられるのが、加害者年齢の低さである。以下は、性加害者の年齢を犯罪類型別に示したグラフだ。これを見ると、集団強姦は他の性犯罪に比べ、29歳以下の加害者の割合が突出して高いことが分かる。

 こうした年齢の偏りは、なぜ起こるのだろうか。斉藤氏と福井氏によれば、大学生などの若い年齢に特有のモラトリアムや体育会系のノリが、犯罪が起こりやすくなる要因としてあげられるという※。

斉藤 「比較的自由な時間が多く、社会的地位も確立されていない大学生活という環境が犯罪発生の背景にあると考えられます。社会人になっても合同コンパはありますが、時間的制約により開かれる回数にも限りがありますし、社会的地位や家族もあるので、それを失ってまで犯罪に踏み出すことは少ないのではないかと考えられます」

福井 「特に大学の体育会系のサークルなどでは、その性質上『強い男性性』という単一の価値観が重視される傾向が強くあります。性犯罪の単独犯では女性、つまり弱い立場の者への支配欲、征服欲が動機となることが多くなっています。同様に体育会系のサークルでも、『強い男性性』により女性を支配・征服することがステータスのひとつとなると考えられるため、それを仲間に誇示することも犯罪動機となる可能性があります」

 また、昨年相次いだ事件で注目すべきなのは加害者の年齢が低いことだけではなく、東京大学や慶應義塾大学、そして医学部など偏差値の高い有名大学の学生たちが加害者であった点である。有名大学出身であることと性加害が頻発したことには何らかの関連性があるのだろうか。これについて福井氏は、高学歴であることによる「認知の歪み」が性犯罪の裏にあった可能性が高いと話す。

福井 「単独犯による性犯罪でよく見られるのが、性暴力を続けるために加害者が都合の良いように現実を解釈する『認知の歪み』です。例えば、ミニスカートをはいている女性を見て『誘われている』と考えたり、女性が恐怖から抵抗できずにいると『同意の上だと思った』と考えたりすることなどが典型的な例です。

 今回の集団強姦事件でも現実を都合の良いように解釈する『認知の歪み』が発生していたのではないでしょうか。有名大学に通っていると、女性から合コンに誘われる機会も多くなります。『自分から近づいてくるということは、女性は性交渉に誘われるのを待っているのではないか』という勘違いに結びつくことは大いに考えられます。

 また、公判で東京大学の加害者学生が『偏差値が低いため、性的な対象としか見ることができなかった』という主旨の発言をしたことにも注目すべきです。大学受験という「偏差値」が過度に重視される環境にいたことで、他者への見方が一面的になり、偏差値が低い女性ならば何をしてもよいという『認知の歪み』が発生しやすくなったとも考えられます」

 

一方で斉藤氏は、メディアで有名大学出身者の犯罪が大きく取り上げられることで、集団強姦事件の加害者像がステレオタイプ化されることには危険性もあると話す。

斉藤 「今回、有名大学の学生による事件が相次いだことでメディアが大きく取り上げられましたが、高学歴の学生だけが集団強姦事件を起こすわけではありません。性加害者の属性は多様です。しっかりと事実を見据えた対策が必要だと考えられます。薬物と同様、性犯罪事件の報道のあり方もガイドラインが必要です」

 昨年11月、近畿大学学生が性的暴行事件の容疑で逮捕されたが、この事件については慶応大などの3事件と比べると話題にならなかったと感じる。斉藤氏の言う通りメディアの報道方法によって世間における「性的暴行犯」の加害者像に偏りがでてしまう危険性はありそうだ。

※「集団強姦」に特に多くみられる加害者年齢層の「29歳以下」には大学生以外も含まれるが、今回取り上げる事件が大学生による集団強姦であるため、大学生という属性に焦点を当ててお話いただいた。

飲酒による性加害リスクを徹底周知すべき集団強姦事件を防ぐ方法とは

 ここまで、集団強姦事件が起きる原因となる集団心理や加害者の認知の歪みについて見てきた。では、性犯罪を防ぎ、今後事件を起こさないために我々ができることは何だろうか。斉藤氏に対策についてお話しいただいた。

斉藤 「集団での性暴力は、アルコールなどの薬物影響下で発生リスクが高まる傾向にあります。アルコールの摂取は加害者の判断力や自制心の低下をもたらし、さらには被害者女性の抵抗力を奪うことにつながるからです。

 しかし、現在大学生のアルコール問題に関する啓発活動では、一気飲みによる急性アルコール中毒等の被害については触れられているものの、アルコール摂取下で性暴力の危険性が増すことについては、周知活動が行われていません。

 適切な知識やリスクを学習していなければ、集団心理に飲み込まれ、犯罪であるという認識がないまま加担してしまう可能性があります。今後、大学で新入生には研修会などの機会をもうけ『飲酒と性暴力』に関する適切な教育が必要だと考えています」

 また、斉藤氏は啓発活動だけでなく、加害者への更生プログラムも大きな意味を持つと話す。

斉藤 「いかなる集団内での同調圧力があったにせよ『みんなもやっているならば、自分もやっていいと思った』『バレなければ大丈夫だ』といった性暴力に関する歪んだ捉え方は、今後社会生活を送るうえで修正すべき認知の歪みであることは間違いありません。

 適切な女性観を学ぶうえでも、受刑中には全員が性犯罪者処遇プログラムを受講できる制度を整えるべきだと考えています。現在も矯正施設内で性犯罪者に対する更生プログラムは行われていますが、軽度知的障害や発達障害、精神疾患を持つ人々などは治療反応性が低くその効果が上がりづらいことなどから、対象から外される傾向があります。本来ならば、それぞれの人にフィットしたプログラムを、特にハイリスク群に行う必要があることを考えると、現状のプログラムの実施方法や体制も見直していく必要があるでしょう」

 日本では「性被害に遭うほうにも原因があった」という偏見が根強く、バッシングを恐れて被害を公にできない人も多い。

 しかし、今回の取材で明らかになったのは、集団心理によって倫理観が失われたり、「認知の歪み」によって加害者が"自分の都合の良いように解釈をしたりする様"であった。罪の責任を被害者に負わせようとする考え方は、加害者の「認知の歪み」を追認することになりかねない。

 性犯罪の理由は「性欲があったから」で片づけられることが多く、加害者がなぜ人を傷つけたのかを掘り下げられることが少ない。この加害者の心理を明らかにすることで、性犯罪に特有ともいえる被害者へのバッシングを減らし、性被害で苦しむ人が1人でも減るように願っている。

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