No.31202011年11月15日(火)放送

オリンパス損失隠し 問われる日本企業

オリンパス損失隠し 問われる日本企業

NHKが入手したオリンパスの内部文書です。
損失隠しに利用された問題の企業買収について、2年前に一度社内で調査が行われていました。
報告書によると買収の決定に関わったのは3人。
菊川剛前社長、森久志前副社長、山田秀雄常勤監査役です。
報告書は買収について疑問はあるものの著しく不合理であったとまでは認められないとして不問にふしていました。
巨額の損失隠しに関わったとされる菊川氏。
2001年に社長に就任して以来、オリンパスの改革を目指してきたといいます。

世界に誇る技術力を持つオリンパス。
デジタルカメラや医療用の内視鏡が主力商品です。
最新のカプセル型内視鏡も開発。
世界シェアの7割を占めています。

一方で、オリンパスにはもう一つの顔がありました。
20年前のバブルの時期財テクに力を入れ、巨額の損失を抱えていたのです。

損失が表面化しそうになったのが2000年ごろ。
会計のルールが変わることになり、会社はこれまで表に出さずに済んだ損失を決算で公表しなければならなくなったのです。

会社は「飛ばし」という手法で、損失隠しを行うことを選択。
その対応に当たったのが、当時財務担当役員だった菊川氏でした。
値下がりした株などを、いったん海外のファンドに買い取らせ社外に移していたのです。

このことは菊川氏のほかごく一部の幹部しか知りませんでした。
飛ばしは、かつて証券会社が顧客の損失を隠すために多用し問題になりました。
破綻した山一証券の調査に当たった弁護士は、今回も同じ構図だと見ています。

損失隠しに当たった菊川氏はその後、社長に就任。
事業の拡大路線を大きく打ち出しました。
目標として掲げたのは1兆円企業。
10年以内に売り上げ2倍を目指すというものでした。
菊川氏はベンチャー企業の買収を積極的に行いました。
子会社は100社を超え、これまで関連のなかった分野にも進出していきました。
事業拡大のためとされた企業買収。
実は、巨額の損失を隠蔽することにも利用されていました。

オリンパスの社内報です。
2008年シイタケの健康食品を扱う会社を買収したことを紹介しています。
この企業の買収価格を決めるのに使われた算定書です。
この年21億円だった年間の売り上げが、僅か4年で269億円にまではね上がると見込んでいます。

菊川氏らは同じやり方で3つの企業を、実際の企業価値を大きく上回る金額で買収しました。
総額734億円。
過剰に支払われた資金の多くは、海外のファンドに移した損失を消すのに使われました。
買収額が高いと不審に思った役員もいました。
技術部門の取締役だった遊佐厚さんです。
取締役会で疑問を呈しましたが独立した別の部門の提案だったためあまり強くは言えなかったといいます。

菊川氏は負の遺産だった損失を消し去る一方で売り上げ1兆円も達成。
社長の在任期間は10年に及びました。
次第に菊川体制に異論を挟めない空気が広がっていったといいます。

現役社員の濱田正晴さんです。
アメリカのオリンパスに出向しトップの成績を上げたこともある営業マンでした。
しかし、帰国後の2007年会社の不正を内部通報したところ意に沿わない異動をさせられたとして裁判で会社と争っています。

ことし4月菊川氏は代表権のある会長職に就任。
ヨーロッパの子会社のトップだったウッドフォード氏を後任の社長に抜擢しました。
国際企業の顔としての役割と30年間働いてきたオリンパスへの忠誠心に期待しました。

しかし菊川氏の思惑は僅か数か月で崩れました。
過去の企業買収の問題に気付いたウッドフォード氏に激しく詰め寄られたのです。

「買収は13億ドルというショッキングな額に上る株主の損失を招きました。
あなたと森さんが直面することが必要です。」

これに対して菊川氏はウッドフォード氏を解任。
逆に激しく非難するメールを全社員に送ったのです。

「ウッドフォード氏の常軌を逸した行動が止まりません。
私や森副社長を悪人に仕立て上げオリンパスの社会的な信用をおとしめることが狙いである。」

この解任劇をきっかけに一連の不正な損失隠しが発覚。
オリンパスの経営は大きく揺さぶられる事態となったのです。

【スタジオ】オリンパス 今後の行方は
牛島信さん(弁護士)
北村記者(社会部)

北村記者:オリンパスは、今、経営の混乱のもととなっている過去の不正を明らかにしようとしています。
弁護士などからなる第三者委員会が、なぜ損失隠しが続けられてきたのか解明を進め、早ければ今月中に調査結果を公表する見通しです。
また、これまでうそを記載してきた過去の有価証券報告書の訂正を急いでいます。
これを受けて、東京証券取引所が上場を維持するのかどうかが注目されています。

証券取引等監視委員会は、経営への影響は、なるべく抑えたい考えです。
オリンパスが長年隠してきた損失は、すでに穴埋めが済んでおり、現在、損失は残っていないと見られています。
またその上、内視鏡事業など、安定しているからです。

有価証券報告書へのうその記載については、行政処分にとどめる方針です。
一方で、企業買収に見せかけて損失を穴埋めしていた経営陣らに対する責任については、刑事告発も検討しています。
今後、東京地検特捜部や警視庁と捜査方針について協議を進める方針です。

●働かなかったチェック機能

北村記者:まず今回の不正について知っていたのは、経営陣の中でも、ごく一部の人たちだけでした。
菊川前社長は、損失額が大きすぎて、決算に計上できなかったと、会社関係者に説明しています。
今回の巨額の会社の買収については、監査法人が不透明だと、以前から指摘して、それを受けて2年前には、調査委員会が立ち上げられたんですけども、僅か2回だけの聞き取り調査で終わってしまって、問題はないと結論づけられています。
疑惑が持ち上がったにもかかわらず、ふたが閉じられてしまった格好です。
監査法人も結局、決算を認めていて、今後、責任を問われる可能性があります。

牛島弁護士:ひと言で申せば、経営者に他人の会社、上場している会社っていうのは、自分の会社じゃないんですから、他人の会社を預かっているという意識が欠けてたからですよ。

【VTR】海外から問われる日本企業の体質

社長を解任されたマイケル・ウッドフォード氏です。
オリンパスの海外拠点に勤務してきましたが社長として初めて見た本社の体質に衝撃を受けたといいます。

「経営陣に問題がありました。
汚れた秘密を社長から次の社長へと引き継いでいたのです。」

菊川氏と森前副社長に不正をただしたウッドフォード氏。
内向きのゆがんだ仲間意識を感じたといいます。

「私が企業買収について尋ねると菊川さんは、いらだった表情を浮かべるだけでした。
森さんに、なんのために働いているのかと尋ねました。
当然、オリンパスのためと思っていましたが菊川会長のためだと答えたのです。
カルチャーショックでした。」

オリンパスを告発したウッドフォード氏の証言は世界に衝撃を与えました。

世界中のメディアはこの問題を大きく取り上げました。
日本企業に共通する問題だという論調が目立ちました。

「自己防衛の姿勢や仲間意識の経営体質が企業の価値を落としている。」

「オリンパスが日本の負の側面をあらわにした。」

オリンパスの株価はウッドフォード氏の解任を機に暴落。
僅かひとつきで4分の1にまで値を下げました。
およそ4%の株式を保有し物言う株主として知られる投資ファンド、ハリス・アソシエーツ。
投資責任者は経営の刷新と透明化を強く訴えました。

「この件に関与した人はもはや会社にとどまるべきではありません。
もし、なんの手も打たれずうやむやにされ責任も問われなければ日本全体にとって致命的なことになります。」

企業の透明性や不正の監視体制を評価している調査会社です。
毎年、国や地域ごとに独自にランクをつけています。
日本は先進国の中でも最低レベルとなっています。

「独立した役員会や監査委員会がないこと情報公開が乏しいことそして株主の権利を制限していることのすべてが評価を下げている理由です。
投資家は優秀な日本企業でも、オリンパスのようになる可能性があることを頭に入れて投資をしなければならないのです。」

【スタジオ】問われる日本企業の体質

牛島弁護士:やはり今海外のほうから日本を見ると、よく分からないわけですよね。
そうすると、われわれから見ればそんなばかなと思うことであっても、海外から見れば、オリンパスだけなんだろうか、ほかの会社もそうなのかもしれないと思うと、どんどんどんどん不安になってしまう。
どんどんどんどん不安になっても、それは外国のことだと放っておけないんです。
なぜかというと、今、株価のことが出ましたね。
株価が下がるということは、外国の方が損する、それだけじゃないんですね。
日本の株の今、4分の1以上は外国人の株主が持ってらっしゃる、そうすると外国人の株主の方が、もう買わない、いや、売ったほうがいいということになると、株の値段が下がっていく。
これはわれわれ日本人にとって、ひと事じゃないんです。
なぜかというと、例えば年金のお金って、相当部分が日本国内の株に投資されているわけです。
株価が下がるということは、自動的にそれが縮んでしまうということですから。

その意味で自分のことなんです。
ですから、今回のオリンパスのことは、外国から見ると、日本はどうなっているか分からない、不安になってしまう、売る、そうすると日本の年金のお金がちぢんでしまう、例えばですね、そういうことが起きかねない。
こういう状況にあるんです。

牛島弁護士:例えば今、出ていますね。
監査役の権限強化、されてきています。
半分以上、取締役会の出席、任期の延長、なされてるんです。
監査法人についても、書いてあるとおりです。
特に一番下にあります、不正発見時の金融庁への監査法人からの報告というのは、2008年からなんですけれども、非常に強力なものなんです。
でもこれが起きてしまったんですね。

●どうすれば働く チェック機能

牛島弁護士:このままでいけないってことが、起きてしまったことは確かですよね。
私は2とおりの議論があるだろうと思います。
一つはですね、アメリカがそうであったように、やはり取締役会の過半数を独立した取締役にしなきゃいけないんじゃないか。
こういう議論が一方にあると思います。
もう片方にあるのは、いや、これまで伝統的に日本のビジネス界が主張してきたことですけれども、日本の監査役というのは、それなりに機能している。
それなりに機能してきたことは間違いないです。
しかし、もっとそれをもう一歩進めればいいんじゃないか。
こういう考え方、この2つが出てくるんじゃないかなというふうに思います。

監査役のほうについては、実は監査役というものは、日本で企業の不祥事が起こるたんびに、改革がされてきたんです。
しかし、いささか「仏作って魂入れず」というところがあったのではないか。
いや、今回、こういうことが起きてしまったから、やっぱりそうだったんじゃないか、じゃあ、もう一歩改革するとしたら何か。
例えば、議論として出てきそうなのは、監査役の人事というのを社長と切り離して、独立したものにしてはどうか。

●信頼回復 何が必要か

牛島弁護士:2002年にエンロンという会社が大きな粉飾事件をアメリカで起こした。
そのときにアメリカは政府と議会ですね、直ちにサーベンスオクスリー、いわゆるオックス法とそれを1年以内に作って、対策を打ったんです。
日本も今回、こういうことが起きてしまったわけです。
海外から疑われているわけですから、いや、日本はこんなふうに変えました、分かってください、大丈夫なんです、こういうことをしなければならない。
それも早い期間にやらなきゃいけない。
そしてそれは立法作業になりますから、国、議会というものが早速動かなきゃいけない。
こういう状況だと思います。

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