ノンフィクション・ライター 森功

船が沈没する時、最初に救助されるのは船客のはず。ところがJALでは、船長と航海士が真っ先に救命ボートに乗り込んでいた。再生へ向けてリストラ邁進中のはずが何たる厚顔無恥! 莫大な税金をつぎ込んだ「再生計画」の意味を改めて聞い直す深層レポート。

「航空トラブルや内紛、不祥事や経営危機があると、必ずと言っていいほど、この手の文書が多くなるけど、よりによってこの時期にあってはならない話です」
 ある労務担当OBは、くだんの投書に視線を落とし、唇を噛んだ。その「日航の再生を願う社員有志一同」なる差出名の六月九日付文書には、こうある。
<特別早期退職において極めて恣意的な運用がなされ、(中略)リストラ施策が完全に頓挫した状況に陥っているばかりでなく、企業再生機構が自ら禁じたにも拘わらず、引責辞任した筈の殆どの役員の「天下り」「渡り」が、今の日航でも平然と行われ続けている>
 目下、企業再生支援機構を受け皿に、法的整理手続き中のJAL。来年三月期の営業黒字が新聞報道され、一見、ことは順調に見える。だが、内情はかなり切羽詰まった際どい状況にある。
「この計画では、とても融資要請に応じられない」
 銀行団にそう突きつけられたJALは、二次破綻が現実のものとして迫ってきた。そのため、一月の会社更生法適用申請時の更生計画から大幅な修正を余儀なくされる。なかでも三年間で一万五千人とした人員削減を、一万九千三百人に上積み。六月末だった裁判所への更生計画の提出期限が、八月に先延ばしされた上、ここへ来て、債務超過額が九千五百八十五億円に膨らむことまで判明した。
 JALは、今まさに再生の道を閉ざされるかどうか、という岐路に立たされている。人員削減は再生の最低条件であり、JAL社内には、かつてない大リストラの嵐が吹き荒れている。
 これに先立ち、JALでは法的整理手続きに入った段階で重役の一斉引責辞任を発表。当然といえば当然の措置だった。
 退任したはずのJAL前役員たち。ところが、そこに飛び出したのが、文書にある「天下り」や「渡り」なのである。社員に早期退職を迫っておきながら、その裏で関係企業に再就職しるているのだから、とんでもない話なのだ。
 今回の投書でやり玉に挙がっている再就職のケースは、JALの高橋淑夫(59)、大島敏業(60)。執行役員だった高橋は、この六月十八日付でグループ商社のJALUX代表取締役副社長に就任。取締役だった大島も二十二日付で、福岡空港ビルディングの副社長になった。が、それだけではない。
 さらに常務だった芳賀正明(61)と前社長の西松遙(62)。芳賀が空港施設(株)なる東証一部上場企業の副社長に収まり、西松にいたっては、日航財団理事長のポストに座っている。
 倒産のどさくさに紛れた再就職。新聞やテレビではほとんど問題にしない。が、JAL関係者の間では、すこぶる評判が悪いのである。
「会社側は高橋と大島は経営に携わった日が浅いので、再就職先を用意したという言い分のようです。確かに高橋は昨年執行役員になったばかり。大島は執行役員から取締役に昇格して一年目。駅伝に例えたら、最終タスキを渡されたときにはどうしようもなかったから気の毒だ、という理屈です。しかし、それで世間が納得するでしょうか」
 あるJAL元役員は、こう鋭い指摘をする。
「高橋は、東大野球部の名二塁手として鳴らし、JAL入り。長年運航本部に籍を置いてきた。経営企画室と一体でやってきた経営の責任者です。スト対策名目で、経営の足を引っ張ってきたパイロットたちに高給を与えてきた立場ともいえます。日航がずっと抱え続けてきた経営体質を変えることなく、今にいたらせた責任は間違いなくある。本来、スポーツマンで東大文学部卒。文学の素養もある彼が、なぜ、そんなことも分からないのか、残念です」
 高橋は目下、進行中のリストラ計画策定を担当した張本人でもある。再就職先のJALUXは、飛行機の部品から給油施設の管理、機内の毛布などの備品調達にいたるまで、一切合財を取り扱う旧「日航商事」だ。経営難で総合商社の双日に株を売却し、今はJALの持ち株は二一%に下がっている。当の高橋本人に事情を聞いてみると、
「自分で選んだわけじゃないから、わからないですよ」
 とまるで他人事だ。

「私はJAL時代から関連事業室長として、JALUXの社外取締役をやっていましたから、声がかかったのかもしれません。五月の初旬、JALUXを建て直してほしいと電話があり、お引き受けした。その話の内容は企業戦略に関わるから言えませんが、天下りという意識はありません。JALUXは三〇%株主の双日とJALが一体経営し、今までも社長はJAL出身者が多かったから、おかしくはありません」
 JALの関連事業室長はグループ企業の担当ではある。が、高橋の在任期間は一年足らず。商社業務の専門家でも何でもない。なぜ、JALUXなのか。
「彼のJALUX副社長就任には、違和感が残ります」
 天下りに関する先の元役員氏の見方はこうだ。
「そもそも飛行機の部品や備品を取り扱うJALUXは、JALの裏調達部隊と呼ばれるほど、業者との取引における利権が多い。会社側は株を売ったとはいえ、その利権を手放したくない。だから、高橋を送り込んだのではないでしょうか」
 また、もう一人の大島は、東大法学部を卒業したJAL本流のエリートだ。労務畑を歩み、旧JASとの合併を推進した兼子勲元社長の門下生である。JAL幹部の解説。
「彼は労務専門家とじて腕を買われ、空港担当の役員に抜擢されました。空港はJALの関連会社に運営を任せている部分が大きく、それらの組合をまとめるのが大変です。その空港担当だったから、福岡空港ピルの副社長としておさまりがよかったのでしょう」
 JALやANAは全国の空港ピルに出資しているため、もともと社外取締役への就任など、人事交流があるが、今回は完全移籍だ。大島にはこの先、福岡空港ビルの副社長として、悠々自適な暮らしが待っている。
 つまるところ、彼らは沈みかけている船の航海士や機関士みたいなものだ。にもかかわらず、一般船員や乗客をさしおき、いち早く救命ボートに乗り込んで脱出しているのである。
 もっとも沈没船における責任の軽重でいえば、役員になって日の浅い彼らより、キャプテンや副船長にあたる社長の西松や常務の芳賀の方が、ずっと重い。
 その芳賀が副社長となる空港施設(株)は羽田空港内にある。全国の主要十一空港ターミナルの各種施設や飛行機の格納庫、整備工場、事務所ビルの賃貸・管理を一手に引き受けている“優良”企業だ。JALの常務経験者が打ち明ける。
「もともと空港施設(株)は、自民党族議員への政治献金づくりが、会社運営の大きな目的でした。施設を所有し、JALやANAがそれを借り上げて、会社に莫大な利益を落としてきた。他にない独占企業。それだけに、施設の賃貸料や管理料は言い値みたいなもの。資金が豊富ですから、経費もかなり使い放題。天下り先としては最高です」
 そして、日航丸の船長、最高経営責任者(CEO)兼社長だった西松進。理事長になった日航財団は、JAL本社ビルの中にある。本来、海外研修生を招いた交流イベントや文化人による講演会などを催す財団法人で、理事長は社長を退いたあとの名誉職だ。先のJAL元幹部が話す。
「西松さんが財団の理事長としてJALグループに残ったのは、リストラされる社員たちの面倒を見るためだと話していました。再就職先を斡旋するには、財団の理事長という肩書があった方がいいらしい。でも、それは結局社員のためではなく、役員の天下りのためだったのか、と言いたくなりますね」
 そもそも引責辞任した経営者が財団の理事長という名誉職を要求すること自体、世間の感覚からズレている。さすがに報酬はないらしいが、社内には次のような悪評も広がっている。
「西松さんは、社員が再就職の相談に来にくいだろうから、囲いのある部屋を用意してもらえないか、と言ったそうです。つまり理事長個室の要求。それと、財界人などと面談する際、タクシーで移動するのはみっともないので専用の黒塗りハイヤーをねだった、とも噂されています」
 まさかとは思うが、念のため本人に確かめようと自宅を訪ねると、「取材には答えられない」と頑なに返答を拒むばかり。むろん財団では「個室やハイヤー要請の事実はない」と否定するが、JAL社内や関係者の彼らに対する不信感は募る一方だ。

「再就職については、管財人と相談の上、本人の経験や適性などを判断して就任しており、適切なものと考えております」(広報部)
 とはこれまたズレたJAL側の見解。くどいようだが、JALを“ツブした”張本人たちなのだ。これでいいのだろうか。
「会社側は、役員に慰労金を支払えないので再就職を斡旋したのかもしれません。今回の特別早期退職制度では、消化していない社員の有給休暇を買いあげる優遇措置まで用意し、退職者を募った。一方、役員たちの中には、経営難に陥り休日返上で働いてきたのに、我々は何もなしでは報われない、と愚痴る人もいたらしい。馬鹿なことを言うな、と言いたいですよ」(JAL元幹部)
 更生計画作りに青息吐息のJAL。そもそも今のリストラ計画の元をつくったのが、前役員たちなのだ。
 その五月末の特別早期退職制度にも問題ありだ。JALは、当初予測した二千七百人の希望退職に対し、三千六百人の応募があった、と大喜びである。が、それは破格の優遇制度があったからに他ならない。月額基本給の六カ月分に加え、退職金は通常の自己都合時の倍付け。おまけに有給の買い上げは、パイロットで一日あたり最大七万円、一人あたり最大二百八十万円にもなる計算だ。
 JALでは、来る九月にも二度目の早期退職者を募る。が、リストラに伴う費用も税金で賄うほかない。社員たちには酷だが、血税を投じた倒産企業に、これまでのような大盤振る舞いは許されないだろう。
 JALの過酷なリストラは、これからが本番。天下り役員たちは、沈みゆく船に取り残されている社員たちに、どう申し開きするのだろうか。 (文中敬称略)

週刊文春2010年7月1日号

1 コメント

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天下りグループ企業 (JAL友)
2010-08-09 16:08:30
JAL本体には頑張ってほしい。が、天下り先といわれるグループ企業にメスを入れまくらないとダメ。消え去ったダイエーと同様に数千社にのぼるグループ企業。このさえ文化教育事業、地図などの出版事業なんてのは真っ先に整理すべき。OFCタリフなんて会社はひどいですよ。社員遊んでいて給料もらってる。JALに寄生している会社をまず整理!そののち本体整理を!

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