コンプライアンスが問題になる主なケース

法令、社内規則、社会良識

コンプライアンス違反が問題となる状況にはさまざまなものがある。誰でもすぐに想像できるようなものから、意外性のあるものまで非常に幅広い。まずは、もっとも基本的な対象になる主な法令から見てみよう。

■ すべての業種・業界に共通の法令
憲法基本的人権、勤労の権利義務、納税義務など
会社法取締役・株主総会の義務、会社原則など
法人税法納税義務
労働基準法労働者の権利や安全の確保
独占禁止法公正で自由な競争の促進
不正競争防止法企業秘密の保護、知的所有権の確保など
消費者保護法消費者の保護、契約取消権など
個人情報保護法個人情報の管理責任
製造物責任法製品の欠陥に対する損害賠償責任
■ 業界ごとの法令
建設業界建設業法、品確法、他
運輸業界道路運送法、道路運送車両法、他
不動産業界宅建業法、建築基準法、都市計画法、他
医療業界医師法、薬事法、他
食品業界食品安全基本法、食品衛生法、他
証券業界金融商品取引法、他

ここにあげたのは企業活動に関係する日本国内の法律のごく一部であり、自治体が定める条例、官公庁からの政令・省令・規則・告示なども遵守の対象となる。また、海外との取引がある場合には、現地の法令や条約なども含まれる。

こうした法令に従って業務を進めるために定められているのが社内規則だ。社内規則を軽視した行動もコンプライアンス上は、大きな問題となる。社内規則は、それぞれの企業によって異なるが、一般的には以下のようなルールが設けられていることが多い。

■ 一般的な社内規則例
基本規則定款、株主総会規程、取締役会規程、組織規程、
業務分掌規程、倫理綱領、個人情報保護宣言、他
基本的運用に関する規則就業規則、経理規程、資産管理規程、広報規程、他
情報管理に関する規則情報管理規程、個人情報保護規程、入退室マニュアル、他
業務に関する規則業務取扱規程、在庫品管理規程、接客マニュアル、他

こうした法令や社内規則は、業界・業態によって異なるだけでなく、それぞれの時代における技術や社会制度、一般常識などとともに変化していくものである。そのため、どこで問題が発生する可能性があるのかを定期的にチェックしていくことが重要だ。

企業に起こりうる不祥事の事例

このように多くの法令や社内規則が関係するため、企業で発生するコンプライアンスの問題をすべて網羅することはきわめて難しい。ここでは、代表的なケースをいくつかのカテゴリーにわけて整理してみることにする。

1)情報マネジメント

ほぼすべての企業がITを利用している現代では、取り扱われる「情報の適切な管理」が高度なレベルで求められている。代表的なものは顧客や取引先、自社従業員などの個人情報だろう。また、情報システムの問題以外でも、従業員のSNS利用時のリスク管理、営業秘密の不当取得、さらには上場株式のインサイダー取引など、幅広いリスクが内在した分野といえる。

【コンプライアンス上のリスク】
  • 個人情報の漏えい、目的外使用
  • 企業秘密の漏えい、不正取得
  • 電子メール、SNS利用上のトラブル
  • インサイダー取引

2)独占禁止法・下請法

企業が関わる不正行為の代表ともいえるのが、競合他社と価格や販売数量、販売地域などについて取り決めを行う「不当な取引制限(カルテル)」だ。こうした取り決めを行う談合には、発注者である官公庁などが枠組みを作る「官製談合」といったものもある。いずれにしても、関与した場合には厳しいペナルティーが科せられる。また、独禁法における「優越的地位の濫用」にあたる、いわゆる下請けいじめでも多くの問題が発生している。

【コンプライアンス上のリスク】
  • カルテル(談合)
  • 不当廉売
  • 下請けへの値引き強要などの不当取引(下請けいじめ)

3)不正会計・不正受給

資金に関係する不正の典型例は「脱税」「申告漏れ」「所得隠し」などである。逆に、上場企業の場合は株価を維持するために、利益などを偽って申告するケースもある。また、近年は行政からの各種補助金を不正に受給するための虚偽申請も少なくない。いずれも反社会的行為であり、完全な犯罪であることを再認識する必要がある。

【コンプライアンス上のリスク】
  • 脱税
  • 粉飾決算、株価操作
  • 違法配当
  • 資金不正使用
  • 裏金捻出
  • 補助金などの不正受給
  • 債務不履行

4)契約・対消費者

2000年代以降に頻発したのが、消費者や取引先を欺く、各種の「偽装・偽造・隠ぺい」だ。これらが社会問題となり、コンプライアンス重視の流れをつくる大きな要因となったことは間違いない。2009年には消費者庁が発足し、今後も行政の「消費者保護」の方向性はより強まるものと見られる。問題を起こした企業が受けたダメージも深刻で、中小企業の場合は倒産に直結した例も多い。

【コンプライアンス上のリスク】
  • 製造物責任
  • リコール隠し
  • 産地偽装、品質表示偽装、原材料偽装など(不当表示)
  • 耐震強度偽装
  • 保険金不払い
  • 銀行の貸し渋りや貸し剥がし
  • 過剰営業(強引な勧誘など)
  • 個人的謝礼の受け取り
  • 苦情対応での暴言

5)著作権・特許権侵害

特許の侵害は、たびたび裁判にもちこまれる。司法の場で特許侵害が認められると、多額の賠償金を支払わなくてはならない。また、ソフトウェアの違法コピー、写真や文章の無断使用なども比較的安易に起こしやすい法律違反といえる。写真の場合は肖像権の問題が発生することもある。

【コンプライアンス上のリスク】
  • ソフトウェアの違法コピー
  • 写真や文章などの無断使用
  • 特許侵害

6)反社会的行為

贈賄は、国内はもちろんのこと海外での対応も重要となる。日本では「不正競争防止法」で外国公務員に対しても贈賄は禁じられている。一部の発展途上国などでは賄賂の要求に応えないと仕事が進まないといったケースも考えられるが、贈賄に日本人が関与していれば、たとえ国外での行為であっても同法が適用される。もちろん、現地の法律で禁じられている行為は当然行ってはならない。

反社会的勢力は、表向きは一般の企業と区別がつかないこともあり、慎重な対応が必要だ。各自治体が制定している「暴力団排除条例」では、不動産の提供など一般的な取引も禁止されていることがある。

【コンプライアンス上のリスク】
  • 贈賄
  • 暴力団、総会屋など反社会的勢力への利益供与
  • 反社会的勢力との交際

7)雇用・労働関連

労働法違反では、時間外労働に対して相応の賃金を支払わない「サービス残業」が代表的。労働組合との協定の範囲内に収めるために、いったんタイムカードに打刻してから、さらに業務を続けさせるようなケースもある。過剰な労働は、過労死や従業員のメンタル不調の原因になりやすく、いったん表面化すると大きな問題となり、社会的な非難を受ける可能性が高い。また、工場など製造現場での偽装請負の問題も多発している。

【コンプライアンス上のリスク】
  • サービス残業
  • 過労死やメンタルヘルス問題
  • 性別による雇用機会・待遇・教育・評価・昇進などの不均等
  • 内部通報者への報復的人事、不当解雇
  • 偽装請負

8)業務命令・社内手続き

法令ではないが社内規則に則った業務命令や社内手続きを軽視することは、コンプライアンス上の大きな問題と言える。特に、利益や効率を優先し、安全管理をおろそかにする企業風土が定着すると、取り返しのつかない大事故につながることもある。その場合、経営者や取締役はそういった企業風土をつくった責任を問われる可能性がある。

【コンプライアンス上のリスク】
  • 違法業務命令(部下に規則違反の行為をさせようとする)
  • 工場や作業現場、店舗での安全軽視
  • 交通機関の間引き運転
  • 上司印の無断利用

9)ハラスメント

ハラスメントとは「いやがらせ」「いじめ」のことだ。純粋に人権問題という側面もあるが、企業経営の観点からは、職場の雰囲気を乱し、業務効率低下や業績悪化の一因となる悪質な行為と言える。また、訴訟などに発展した場合には企業イメージを大きく損なうことにもなる。

【コンプライアンス上のリスク】
  • セクシャルハラスメント
  • パワーハラスメント
  • モラルハラスメント
  • ルコールハラスメント
  • ジェンダーハラスメント
  • アカデミックハラスメント

10)モラル・私生活

横領などは明らかに犯罪行為だが、本来なら企業に対して忠実義務を負うはずの従業員がそうした犯罪に走るような環境は、管理体制に問題があると言わなくてはならない。また、従業員の私生活も企業のコンプライアンスと無関係というわけにはいかない。問題を起こした場合には、所属している企業名がマスコミなどで報道され、影響が及ぶ場合もあるからだ。

【コンプライアンス上のリスク】
  • 業務上横領、私的流用
  • 飲酒運転
  • 賭博
  • 法薬物使用
  • 暴力

11)環境対応

近年急速に関心が高まっているのが環境に対する企業の姿勢だ。現状でも、環境汚染や不法投棄は大きな問題となっている。また、今後二酸化炭素の排出権売買がビジネスとして確立されると、自社の排出量をどう算出し申告するかが、費用とのかねあいで非常に重要になってくる。

この時に、実際よりも少なく見積もって申告した企業に対しては、地球環境に対する責任感のない企業だという非難が集中するリスクがある。


【コンプライアンス上のリスク】
  • 土壌汚染、水質汚染、大気汚染
  • 廃棄物の不法投棄
  • 二酸化炭素排出量の不正申告


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