不祥事から事業売却へ。過去10社の例を振り返る

リクルートから東芝まで

 2015年は、東芝の不適切会計やフォルクスワーゲン(以下、VW)の排ガス不正問題など、世界的大企業の不祥事が相次いだ。VWはまだ渦中にあるが、東芝は「新生東芝アクションプラン」を発表し、事業再編の緒に就いたところだ。いずれにしろ一度失った信用の回復には時間がかかることは間違いない。

 東芝は、粉飾決算の訂正によって自己資本が“棄損”し、さらには収益性が“低下”した。ただ、本来あるべき数値に改めただけなので、実は、自己資本が“棄損”したわけでも収益性が“低下”したわけでもない。

 業績の悪化が望まぬ形で明らかとなり、結果として下記のような事業の譲渡やグループ企業への承継、また早期退職、人員再配置など、大きな痛みを伴う改革を強いられた、というだけだ。

 経営陣が、直視すべき数値から目をそむけず早い段階で手を打っていれば、事業の見直しはやむを得なくとも、日本を代表するブランドに泥を塗ることはなかっただろう。過去にも世間を騒がせたM&Aはある。不祥事からM&Aに至った事例をいくつか掘り起こしてみたい。

リクルート(88年)


<概要>
 創業者の江副浩正氏が自社の政財界における地位を引き上げる目的で、株式公開を控えた関係会社リクルートコスモス(現・コスモスイニシア)の株式をキーパーソンに譲渡し、上場後に多額の利益を得るよう便宜を図っていたことが88年に発覚し、日本を揺るがす大事件に発展した。当時、未公開株式は値上がり確実と言われていたが、上場後に得たリクルートコスモス株の多額の利益が賄賂と認定された。世にいう「リクルート事件」である。

 結果、リクルートやリクルートコスモスの社会的信用が地に落ち、江副氏は会社を去ることになる。折からのバブル崩壊の影響もあり、リクルート単体だけで約1兆4,000億円の負債を抱えたリクルートは、優良事業や所有ビルの多くを売却せざるを得なかった。

 また、江副氏は92年に自身が保有するリクルート株をダイエーに譲渡(※14年上場時に506万株を保有していたことが判明)。ダイエーが筆頭株主となり、リクルートはダイエー傘下に入った。

<その後>
 リクルートは驚異的な収益を上げ、巨額の債務を利益で返済し、15年には株式公開を果たした。その過程で今度は筆頭株主のダイエーが経営危機に陥り、リクルート株を譲渡するが、これによってダイエーが助けられるというのは皮肉な話である。ただ、創業者の不正や大株主の経営危機を、従業員たちが獅子奮迅の活躍で挽回した事例といえるだろう。

 その後リクルートコスモスは、ユニゾンキャピタルに買収(MBO)されているが、これは不祥事とは無関係である。

山一證券(97年)


<概要>
 山一證券は当時業界第4位で、いわゆる4大証券の一隅を占める企業だったが、売り上げ拡大のため、財テクに走った大手企業の運用資金に着眼。営業特金(顧客から資金を預かり一任勘定で運用するもの)に営業をシフトしたが、バブル崩壊で営業特金が1300億円の含み損に転じる。山一證券はこの損失を「飛ばし」で処理した。「飛ばし」とは、含み損の出た金融資産を自ら設立したペーパーカンパニーに売ることで簿外債務として処理する不正処理で、西日本新聞のスッパ抜きで問題が表面化した。

 全国の支店に払い戻しを求める客が殺到。97年11月に自主廃業して倒産した。負債総額は約3兆5000億円とされる。

<その後>
 山一證券の社員3分の2と28店舗が米国の大手金融業メリルリンチが設立した「メリルリンチ日本証券」に移籍・譲渡された。12年末、メリルリンチ日本証券は、メリルリンチPB証券の全株式を三菱UFJグループに売却し、日本国内のリテール部門から撤退した。現在は「三菱UFJモルガン・スタンレーPB証券」となっている。

雪印(00年・02年)


<1.集団食中毒>
 00年6月から7月にかけて、近畿地方を中心に集団食中毒が発生。雪印乳業の乳製品(主に低脂肪乳)を飲んだ子供らが嘔吐(おうと)や下痢などの症状を呈した。発生源となった大阪工場が回収に応じなかったため、被害が拡大。食中毒の認定者数は1万4780人と戦後最大の集団食中毒事件となった。

<2.牛肉偽装事件>
 01年9月、北海道産の乳牛に牛海綿状脳症(BSE)の疑いがあると農林水産省が発表したため、国内産の牛肉の販売が控えられる事態となった。国は業者保護のため、国産の食用牛を買い上げる措置を講じた。雪印食品は、この補助金制度を利用して安価な輸入牛肉を国内産と偽って国に引き取らせ、2億円程度をだまし取った。これが内部告発で明らかになると、雪印食品に対する調査のメスが入り、BSE問題だけでなく、普段から輸入牛肉を国産と偽って販売していたことが発覚。牛肉だけではなく、豚肉も輸入肉を国産として販売していたことも判明し、会社ぐるみの犯行であることが暴露された。

<その後>
 集団食中毒と牛肉偽装。相次いで不祥事が発覚したため、雪印のスノーブランドは地に落ちることになった。その結果、雪印食品は再建できず解散、雪印関連会社も相次いで売却された。

<主なM&A>
・雪印物流(現・SBSフレック)をエスビーエスが約30億円で買収
・雪印ラビオ(現・カゴメラビオ)をカゴメが約30億円で買収
・雪印ベルフォーレ(現・シャトレーゼベルフォーレワイナリー)をシャトレーゼが4億円で買収
・雪印冷凍食品(現・アクリフーズ)をニチロ(現・マルハニチロ)が買収
・市乳事業は、全農、全酪連と事業統合し、日本ミルクコミュニティに分社化(09年に雪印乳業と経営統合し雪印メグミルクに)。

カネボウ(04年)


<概要>
 恒常的に行われていたとされる事業部ごとの売り上げ水増しやバブル崩壊後の負債などを抱え、カネボウは02年3月期の連結決算で、約260億円の赤字を7000万円の黒字に、約1900億円の債務超過を9億2600万円の資産超過と有価証券報告書に虚偽の記載を行った。債務超過が明るみに出れば銀行からの借り入れができなくなるほか、上場廃止の恐れがあったからである。

 05年4月、カネボウは96年3月期から04年3月期まで、実際は9期連続で債務超過であったこと、また不適切な会計処理による粉飾総額は2150億円にも及ぶことが判明した。粉飾発覚から2カ月後に上場廃止となり、産業再生機構の支援の下で経営再建を目指したが経営破綻寸前となり、事業継続を断念した。

 また、これに伴って当時監査を担当していた中央青山監査法人の会計士4名が逮捕された。同監査法人は監査先企業の問題発覚が相次いだため2カ月間の業務停止処分となり、みすず監査法人と改称したが信用回復はならず、07年7月に解散した。

<主なM&A>
・化粧品事業と「カネボウ」の商標権を花王が買収。知財権なども含め、買収金額は4270億円
・日用品、医薬品、食品事業をカネボウ・トリニティ・ホールディングス(現・クラシエホールディングス)として事業再編。09年9月にホーユーが約100億円で株式の約60%を取得し子会社化
・綿、合成繊維事業をセーレンが買収
・カネボウストッキングを福助が買収

ライブドア(06年)


<ライブドア事件の概要>
 堀江貴文氏が率いるオン・ザ・エッヂが02年に買収。株式分割や合併・買収を繰り返し、グループ全体の時価総額を約1兆円企業に急成長させた。時代の花形ともてはやされたホリエモンこと堀江貴文氏だが、証券取引法違反(有価証券報告書虚偽記載)で主要役員を退任。逮捕され、懲役2年6カ月の実刑判決を下された。なお、堀江氏は、LDH(旧・ライブドア)に損害を与えたとして同社と争っていたが、その後208億円の資産譲渡で和解している。

<主な不祥事>
・投資事業組合を利用した粉飾決算
ライブドアの04年9月期の連結決算で、自社株の売却収入を売上高に含め、子会社2社に対する架空売り上げを計上するなどの手口で、実態は3億1300万円の経常赤字であったにも関わらず、50億3400万円の経常黒字であったとする虚偽の有価証券報告書を提出した。
・風説の流布
04年10月、ライブドアがライブドアマーケティングを買収する際、実際にはすでに支配下にあったにも関わらず「株式交換で買収する」と虚偽の情報を流した上に、ライブドアマーケティングの売り上げを1億円水増しした。これにより株式を100分割した際、ライブドアマーケティングの株価が高騰し、新株を8億円で売り抜けたライブドア傘下の投資組合が大儲けし、その金はライブドアに入ったとされた。

<主なM&A>
・インボイスがダイナシティの新株予約権(MSSO)を、公開買付けによって28億2900万円で買収。
・ライブドア証券(現・かざか証券)を、アドバンテッジパートナーズが運営するAPFHへ譲渡。貸付債権などを含む実質的な売却額は約551億円。
・中古車販売子会社のライブドアオート(現・カーチス)をソリッドアコースティックスにTOBを通じて売却。売却額は約118億円。
・弥生の全株式をMBKパートナーズに710億円で売却。
・ぽすれんの全株式をゲオに5億6000万円で売却。
・セシールをTOBでフジ・メディアサービスに売却。売却額は83億円。
・メディアエクスチェンジの保有株式を日本SGIに売却。売却額は31億円。
・NHN Japan(現・LINE)にライブドア(現・LDH)を売却。

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M&A Online編集部2016年03月11日/06月17日

この記事のファシリテーター

一連の不祥事のすべてをくくることはできないまでも、伝統的なものづくり企業に起きているいくつかの事例は、「ゲームチェンジ」と実態とかい離した「絵に描いた餅の現場への押しつけ」がある。すでに市場からその商品がゲームチェンジを宣告されているにも関わらず、経営陣はそれを認められず(少なくとも自らの在任中は)、こうあるはず・こうあるべき(認められない事実は見たくない)という言動で現場を追い込む。経営陣に原因があり、心の折れた現場に結果が生まれる。

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