会社をクビになる事例ワースト10……「痴漢」「使い込み」「競業」



■なぜ痴漢より「使い込み」「競業」が厳罰なのか

「サラリーマンが何か不祥事を起こしたときに受ける処分を懲戒処分といいます。最悪の場合には『クビになる』こともあり、これは普通の解雇と区別して懲戒解雇と呼ばれます。ここでは懲戒処分、とりわけ懲戒解雇がどういうときに認められるのかを見ていきましょう」

 神戸大学大学院教授(労働法)の大内伸哉氏が説明する。
 企業秩序を侵害したことに対する制裁措置。これが懲戒処分の意味である。
 懲戒事由と懲戒処分については、企業があらかじめ就業規則に記載しておかなければならない。懲戒処分の種類は会社によって異なるが、通常は、軽い順に「譴責」「戒告」「出勤停止」「減給」「降格」「論旨退職」「懲戒解雇」となる。
 なかでも懲戒解雇は、退職金がゼロになるとか再就職が困難になる「サラリーマンにとっての極刑」(大内教授)なので、重大な企業秩序の侵害があってはじめて許されるというのが一般的な解釈だ。

 サラリーマンの不祥事は、業務に直接関係するものと私的領域に属するものとの2種類に分けることができる。前者でいえば横領や業務に関する不正な金品の受領などが典型的だ。ツイッターで顧客情報をばらしてしまったということも含まれるだろう。後者は痴漢や万引、飲酒運転、不倫などが考えられる。
 私的領域の不祥事には、プライベートな時間帯での犯罪行為も含まれる。そうした犯罪で逮捕されれば、文句なく懲戒解雇になるのだろうか?
「刑事罰に相当する行為があった場合、処罰を下すのは司法の役割。また犯罪にも重大な犯罪、軽微な犯罪があります。会社は社員のその行為が企業秩序を侵害している場合に、その限りで制裁を科すことができるにとどまります」(大内教授)

 むろん殺人や放火といった重大犯罪ならば、一度事件を起こしただけで懲戒解雇もやむをえない。だが、痴漢や飲酒運転の場合は、軽微とはいえないものの、程度や常習性の有無によって会社の扱いも異なりうる。
「痴漢行為で捕まっても被害者と示談が成立すれば、不問に付されることもあるでしょう。しかし会社に知られたとか、有名企業の社員だったために逮捕の事実が報道されたとなると、『会社の社会的評価に重大な悪影響を与えた』と見なされ、職務には関係ない行為であっても懲戒処分の対象になりえます」(大内教授)
 ただし、そのことがすぐ解雇につながるのかというと、そうではない。住居侵入による有罪判決が懲戒解雇の事由になるかを争った判例では、私生活の範囲内の事件であり、罰金額が小さく、会社での当人の職位が低いことから解雇は無効とされている(横浜ゴム事件)。

 一方、発覚すれば重い懲戒処分になる可能性が高いのが業務に関する犯罪、特に使い込み(横領や私的流用)のような金銭に関わるものだ。大内教授がいう。
「会社と社員の基本的な信頼関係を破壊する行為であり、背信性が高いとして一度で懲戒解雇となるケースがあります」
 金額の多寡によって処分の重さも違ってくるが、出張費のごまかし程度でも、一定額に達していれば懲戒解雇の事由になる。ただ、どの程度の額が「懲戒解雇ライン」かという一般的な基準はなく、結局は会社の判断しだい。
「競業」も発覚すれば大問題に発展する。
 就業規則で無許可の副業を禁じている企業は多いが、単に「許可なくアルバイトをしていた」というだけで懲戒解雇とするのは「権利の濫用にあたる可能性が高いでしょう」(大内教授)。だが、同業他社に雇われるとか、同業の会社を立ち上げた場合(競業)は、事業のノウハウや顧客情報の流出が懸念されるため、懲戒解雇となりうるのだ。


■「社内不倫」「転勤拒否」でもクビになる?

 大企業のホワイトカラーには転勤がつきもの。しかし、家庭の事情でその土地を動きたくない場合もあるだろう。転勤命令を拒否したらどうなるか。
 大内教授が解説する。
「転勤を命じることができるかどうかは、会社と従業員との契約内容によります。就業規則に『業務上の必要性により転勤を求める場合がある』という規定があれば、会社側は転勤を命じることができます。ただし、特に勤務地を限定する約束をあらかじめしていれば、それ以外の勤務地への転勤は、拒否することができます」

 単身赴任を強いられる場合はどうだろう。民法752条は夫婦の同居義務を定めている。単身赴任によって同居義務を果たせなくなるなら、転勤命令を拒否してもいいのではないか。
「業務上の必要性がある転勤命令であっても無効とされることはあります。それが会社による『権利の濫用』とみなされる場合です。たとえば業務上の必要性に照らして従業員の不利益が著しく大きい場合がこれにあたります。過去の裁判例からすると、自活できない両親や障害を持った兄弟や子供がいる、家族の誰かが病人で介護の必要がある、といったケースがこれにあたります。しかし『単身赴任をしたくないから』という理由だけでは、著しく不利益とはいえないでしょう」(大内教授)

 一方、妻のある男が職場の女性と深い仲になってしまった、という場合はどうだろう。
 不倫は民法上の不法行為(貞操義務違反)にあたり、“被害者”は自分の配偶者と浮気相手に対して損害賠償を請求できる。とはいえ、本来、そこに会社が介在する理由はなさそうだ。
 たとえば既婚男性と独身女性との社内不倫が発覚し、独身女性だけが解雇されたというケース。
 裁判では、二人の関係はこの会社の懲戒事由にあたる「素行不良」に該当するが、企業運営に具体的な影響を与えるほどではないとして、解雇は無効と結論づけた。
 だからといって、安心できるわけではない。
「たとえば『怒り狂った奥さんが職場に乗り込んできて大混乱になった』など明らかに業務に支障が出ていれば、会社側にも一定の処分を行う権利はあるとみられます」
 大内教授は、こう警告するのだ。


■大きすぎる「内部告発」のリスクとは

 食品メーカーの賞味期限の改ざん、不当表示など企業の不祥事がいくつも明らかになって以来、「内部告発」の重要性が叫ばれている。しかし、そんなことをしたらクビが危ないのではないか。
 2006年に施行された公益通報者保護法は、会社の違法行為を内部告発した社員が不当な扱いを受けないようにするための法律だ。

 ところが、法律には内部告発(法律では「公益通報」)の定義や告発のルートについて厳しい条件がつけられており、実際には機能しない場合があるという。まず、通報内容は犯罪行為に関わる事例でなければならない。
「たとえば、社長が愛人を秘書にして公私混同の経営をしているとします。しかしこれは直接犯罪行為に結びつくわけではないので、告発しても法律の保護を受けられません」(大内教授)

 また、社内への通報は保護を受けやすいが、監督官庁に通報するときは保護の条件が狭まり、報道機関など外部への通報の場合は要件がさらに厳格になる。
 外部への通報が保護されるには、社内に通報すればほぼ確実に報復されるとか、証拠隠滅のおそれがある、社内通報では相手にされなかった、生命・身体に危害を加えられる急迫した危険がある、といった条件が必要だ。

 一方で、内部告発を行った社員に対して「会社の名誉・信用を毀損した」という理由から会社側が懲戒処分を科すことも珍しくない。
 たとえば、予備校の講師が理事長の不正経理問題に関して記者会見を開き解雇されたケース。この裁判では、一審は解雇処分を無効としたが、二審は講師の行動を「雇用関係の信頼を踏みにじる行為」とし、解雇は有効と判断した。
「判例を見るかぎり、まずは内部通報をするなど企業内部での解決を図っていない場合は、会社側の処分が有効となる可能性は十分にある」と大内教授はいう。

 また、公益通報者保護法が禁じているのは、通報者への解雇や降格、減給といった、あくまでも目に見える形での報復処分。仮に査定や昇進で不利な扱いをされても、それが不当であるかどうかは判断しにくい。
 現状では、万全の保護を受けられるわけではないのである。


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神戸大学大学院 法学研究科教授
大内伸哉
1963年生まれ。東京大学法学部を卒業後、同大学院修了。『労働条件変更法理の再構成』『どこまでやったらクビになるか』など著書多数。近著『君は雇用社会を生き延びられるか』。

久保田正志=構成


http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20120215-00000001-president-bus_all
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