【業過致死】奈良・山本病院理事長を再逮捕も続く「悪徳医師」報道合戦

奈良県内の医療法人雄山会「山本病院」(大和郡山市長安寺町242)=破産手続き中=で専門的経験や技術力・設備のない肝臓手術を受けた男性患者(当時51歳)が死亡した事件で、奈良県警察本部はこのほど、理事長で医師の山本文夫被告(52)=詐欺罪で有罪実刑判決を受け控訴・保釈中=と手術に立ち会った医師の塚本泰彦容疑者(54)について、あやまって血管を傷つけて失血死させた業務上過失致死容疑で逮捕した。
山本容疑者については今年1月13日、生活保護受給するホームレス患者に心臓カテーテル手術をしたように装って診療報酬約835万円を詐取したとして懲役2年6月の実刑判決を民事上受けており、今回の刑事上罰の立件で逮捕は2回目となる。

今回の犯行容疑のキッカケは、2006年6月までに男性患者に対して肝臓の腫瘍を「悪性のがん」と2人で共謀しつつ虚偽の告知したことに始まる。
2006年6月16日、十分な経験や技術がなく人的態勢も確保しないまま、山本容疑者が主に執刀し塚本容疑者が手助けしつつ、男性患者の肝臓手術を強行した。
腫瘍は摘出できたものの過って肝静脈を激しく傷つけたため、男性は出血が止まらないまま容態が悪化していった。
出血した場合に備えて通常は事前に輸血用血液の準備などするが、山本容疑者らは措置をほとんど取らなかった。
手術終了後ICU(集中治療室)に移しつつ急いで赤十字血液センターから取り寄せて男性に輸血を施したが、ついに息を引き取ったとされる。

そもそも肝臓切除手術は症例を積んだ執刀医にしかできないと言われる。
山本容疑者自身2000年の大阪大学病院第一外科医局助手時代に肝臓がん手術に立ち合った経験がわずかにあるだけで、塚本容疑者も助手の経験しかなかった。
山本容疑者の専門は心臓血管外科、塚本容疑者は循環器内科なのに、まったくの専門外である肝臓がん手術を強行。
通例7~8人の医療スタッフで対処すべきものを看護師2人を加えた4人だけで実施した。
患者の血圧や脈拍・人工呼吸器などをチェックする麻酔医すらおらず、執刀医の山本容疑者が兼ねたという。

肝臓がん手術は開腹が一般的だが、山本容疑者らは胸の下を横に切る開胸手術を選び、事前に外部からレンタルした「超音波外科用吸引装置」(CUSA)を使用。
腫瘍組織を破壊しつつ同時に破壊した組織を吸引する最先端機器で、血管を傷めずに出血を抑えられるメリットがあるとされる。
しかし山本容疑者らはこれら最新鋭機器の扱いに習熟していなかった。
大量出血で意識を失った患者の心臓マッサージも看護師に任せ切りだったという。

これまで逮捕前の任意による事情聴取に対し、山本容疑者は「きちんと止血した。患者は心筋梗塞で死んだだけ」などと容疑を全面否認。
一方、塚本容疑者は容疑を大筋で認めている。
事実、当該患者の死亡診断書では死因を虚血性心疾患の「急性心筋梗塞」と記載されていた。
死因に不審を抱いた看護師が独断で肝臓の組織の一部を奈良県内の検査機関に提出して病理検査を依頼していたため、静脈などの太い血管がひどく損傷していたことが判明している。

山本容疑者については昨年7月、ホームレスを中心とする生活保護受給者に心臓カテーテル手術をしたように装った診療報酬の詐欺容疑で奈良県警が逮捕。
今年1月13日には、診療報酬約835万円を詐取したとして懲役2年6月の実刑判決を受けている。
この詐欺容疑立件自体についても、生活保護受給者を食い物にして診療報酬を荒稼ぎする「故意に患者を傷付けて死亡させた悪意の医療行為」(荒井正吾・奈良県知事のコメント)の全体手法からは氷山の一角ともされている。

ちなみに「山本病院」を運営する医療法人雄山会については昨年12月28日、奈良地裁に自己破産を申請し、同日に破産手続き開始決定を受けている。
負債総額は約7億1800万円とされた。
山本病院は1999年7月に開業し、2007年4月に法人改組した病床数80床の一般病院。
とくに心臓血管外科が得意という触れ込みで、昨年3月期の年収入高約11億6100万円を計上するなと奈良県内では相応の評価を得ていた。

また奈良県の「調査・再発防止委員会」(委員長・木村陽子総務省地方財政審議会委員)でも、今回の事件に関連して昨年10月14日に調査報告をまとめている。
カルテのサンプル検証(対象11人)のうちほぼ全例に過剰診療が行なわれていたとされ、多くの症例での症状・検査所見の捏造が疑われるなどとしていた。

山本病院における2008年度在院患者(延べ数)のうち生活保護受給者は54%であった。
さらに受給者の73%が症状に関係せずに心臓カテーテル検査や手術を受けていた。
入院が30日を超えると診療報酬の点数が下がるためか、受給患者の41%は1年間に平均で5病院の入退院を繰り返していた。

山本容疑者は昨年10月の診療報酬不正受給事件の公判においても「受給者は取りっ逸れがない」と説明。
さらに「事務長らが奈良や大阪・京都の病院と患者を受け渡すシステムを作った。それが病院経営の下支えとなった」ことなどを明らかにしていた。

病院に入院する生活保護受給者の大半は身寄りがなく、インフォームド・コンセント(十分な説明に基づく同意)に同席する人もいない。
ある病院関係者は「何かあっても苦情は出ないし、訴えられることもない」などと声を潜めて語る。

奈良県健康安全局によるの立ち入り検査なども年に1回程度で、清潔保持状況や診療録など表面的なチェックだけで、まず診療内容などには踏み込んでこない。
また入院受給者は県外からが86%を占めているため、奈良県地域医療連携課などでも患者の医療費の状況を把握できなかった。
まさに医療福祉行政の目が行き届かない貧困層へのニッポン社会の寒々とした「風景」が垣間見えてくる。

昨夏の詐欺容疑での捜査段階から、この死亡した男性入院患者に必要のない肝臓がんの手術をして故意に死なせたとする傷害致死容疑も浮上していた。
しかし遺体がすでに火葬されていたこともあり、密室での悪魔的医療行為の限界を超えて「不要な手術だった」との認識を山本医師らが持っていたことを立証できる証拠を十分に集められなかった。

ある捜査関係者は「医師の裁量は広い。それを逸脱したと証明するのは難しい」との本音も打ち明ける。
奈良県警が押収した男性患者のCT画像などを肝臓専門医らに見せたところ、腫瘍は直径1~2センチであって「肝血管腫(良性の腫瘍)ではあるが手術の必要はなかった」という。
手術後に山本医師らの手術に不審を感じた看護師が死亡男性の腫瘍を外部の検査機関に病理検査に出していて、その検査結果も良性だったことも分かっている。

しかし、決定的な物証が乏しく、それを見透かす山本容疑者は任意の聴取に対し全面否認を続けてきた。
「予防のために手術した」「当時がんだと思っていた」という医師としての所見・反論も予想された。

こうして昨年9月に傷害致死容疑で家宅捜索するなど奈良県警は同容疑での逮捕を目指しててきたが、ここに来て断念せざるを得なかった。
そのため今回、治療目的かどうかは問わない形で、手術ミスによって患者を死なせたとする業務上過失致死容疑に切り替えての2回目の逮捕を決断することとなった。

警察庁によると、1997年以降、刑事上の業務上過失致死容疑で医師本人が逮捕されるのは、
1. 2001年3月東京女子医大病院での「心臓手術ミスで患者を死なせ記録を改竄」
   【2人逮捕・起訴、1人有罪・1人無罪判決】
2. 2002年11月東京慈恵会医大青戸病院での「経験のない手術方法を選択し患者を死なせる」
   【3人逮捕・起訴、全員有罪判決】
3. 2004年12月福島県立大野病院での「帝王切開のミスで妊婦死亡させ警察に届け出ず」
   【1人逮捕・起訴され、無罪判決】
――に次いで今回で4件目となる。

本事件を巡るマスメディア報道では「だれでも不正脈診断」「なんちゃんてステント」などといった刺激的なキーワードが広くTVワイドショーなどでも踊った。
今回の山本容疑者らの逮捕後も、「あんたは切らないと直らないなど」と手術承諾書を迫られ悩む死亡男性による日記の存在、輸血発注日やカルテ・死亡診断書の日常的偽造、容態急変後の飲酒外出、少なくとも4件以上ある胃がんなど専門外手術、ホームレスを中心とした「患者」の日常的な野外放置など、「疑惑のデパート」ぶりを暴く「三面記事的」「週刊誌的」な報道合戦が延々と続く。


■関連サイト
福祉医療機構(WAM NET)による病院・診療所情報「医療法人雄山会 山本病院」 HP